ペットの幸せそうな姿が飼い主に『回復のエネルギー』を与える
大事なことは、最期まで、病気ではなく、ペットと向き合うことだという。
「彼らが求めるのは、飼い主との変わらない平和な日常だけです。飼い主が病気しか見ずに暗い表情をしていると、ペットは『自分が何か悪いことをしているのではないか』と考えて、落ち込んでしまう。これは不幸です。終末期での重要な治療は『痛み』をとってあげるだけでいい。ペットは自分の病名を知りません。痛みさえなければ、自分のペースで好きなものを食べて動いて、好きな場所で寝ます。その幸せそうな姿が、ペットが亡くなった後も、飼い主に『回復のエネルギー』を与えるんです」(同前)
重要なのは、この回復のエネルギーをいかに得るか、だ。以下、私自身の経験と、ペットロスを経験した人への取材をもとに、できるだけ具体的に書いてみたい。
〈お別れのセレモニー〉
「実はお別れの時間がとても大事なんです」と前出の阿部氏は語る。私も経験したことだが、ペットを亡くした直後でも、火葬の手配など事務的な作業は意外にできてしまうものだ。
「そうなんです。それで葬儀屋さんに『今日の夕方なら』と言われて、慌てて火葬してしまう方も多いのですが、お別れの時間が短すぎると後で引きずります。亡くなってからお別れのセレモニーまでの時間、心ゆくまで身体を撫でて、話しかけて感謝の気持ちを伝えることが大切です。バギーにのっけて散歩してもいい。きちんと保冷の処置をしておけば、慌てる必要はありません。私も、亡くなった犬と5日間、一緒にいたことがあります」(同前)
できれば、ペットの生前に、葬儀社や葬儀場の目星をつけておくといいという。「縁起でもない」という声もあろうが、納得のいくお別れができれば、ペットロスからの回復も早くなる。
〈花を供える〉
ミントを亡くしてから2日後、突然、美しい花が自宅に届けられた。贈り主は、散歩コースにあったワインショップのオーナー夫妻だった。ミントは愛犬家の2人の店に寄るのが大好きだったので、その死はメールで知らせていた。
今回初めて分かったことだが、犬を亡くすと、その存在を記憶しているのは自分たち家族だけ、という錯覚に陥って、それが悲しみに拍車をかける。
そんなときに「ミント君のこと忘れないよ」というメッセージとともに届けられた花には、本当に救われた。急にぽっかりと空いた部屋の空間を物理的に埋めてくれるのも有難かった。
このとき以来「ペットを亡くした人には花を」と私は誓うようになった。