これは第1作『必殺仕掛人』の事実上の主役が、坊主頭の藤枝梅安であったことに起因しており、後に崩壊してしまったものの、〝坊主頭のキャラクターが主役〟というのは初期必殺シリーズにおける不文律となっていた。
あらゆる面において画期的な『必殺仕置人』だったが、そのなかでも最も斬新かつ、シリーズの人気を支えることになったのが、念仏の鉄の〝必殺技〟である。
なにせ〝必殺〟というくらいなのだから、悪人を殺すシーンが面白くなくては困るワケだが、実際に画面に登場した鉄の必殺技は、その不安を吹き飛ばしてあまりあるばかりか、われわれ視聴者の作品に対するイメージを決定づける、重要なファクターとなってしまった。
松竹の名カメラマンの一言で、時代劇にレントゲンが登場
念仏の鉄はその外観どおり、もと僧侶。不義密通のかどでお縄を頂だいし、佐渡送りとなった。佐渡金山での労働はまさに生き地獄。光のない闇の世界でくりかえされる単純作業だ。休む暇すら与えられず、崩れた岩盤にいつ押し潰され、生き埋めになるともしれぬ毎日が続く。怪我をしても誰も救ってくれる者などいない。鉄も一度は死ぬような目にあった。そんな状況下で鉄は、自分や仲間の治療のため、見よう見まねの接骨法を身につける。それが念仏の鉄の設定だった。その特殊能力をいかした鉄の必殺技が〝骨はずし〟である。
なんとも健康的な話だが、相手の背骨をはずしたり、怪力で喉骨を潰すこの〝骨はずし〟は、かつてない映像となってわれわれ視聴者のド肝を抜いた。鉄の指が仕置する相手の背中に沈むや否や、ブラウン管にあらわれる奇妙な映像、それはどこからどう見ても〝レントゲン〟だったのだ。
これ……時代劇……だよな? 初めてこの映像を目にした者なら誰でも一度はそう思うだろう。
画面中央に丸く抜かれたレントゲン画像のなかで、鉄の腕が背骨をはずす……。誰しもがこの撮影方法に疑問を抱くことと思うが、タネ明かしは実に簡単。本当に病院でレントゲンを使って撮影したのだ。
プロデューサーや脚本家たちの熱気あふれるミーティングの結果誕生した〝骨はずし〟という必殺技だったが、それをどう映像で表現するかで、とどこおってしまった。スタッフが頭を痛めているなか、松竹撮影所の誇る名カメラマン・石原興がいとも簡単にこう口にした。
「それじゃあ、レントゲンで撮ったら?」
そこにいた人間誰しもの目からウロコが落ちたのはいうまでもない。実際に撮影可能かどうかを病院に相談して検討したところ、実現できることが判明。空前絶後の映像が誕生したのだ。そのインパクトたるやあまりにもすばらしく、一時は必殺シリーズ=レントゲンという、単純かつストレートな方程式が世間に定着してしまったほどだ。