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催眠術による不気味な殺し技。あまりに斬新で視聴者のド肝を抜いた時代劇「必殺シリーズ」

2021/03/05

source : 電子書籍

genre : エンタメ, テレビ・ラジオ, 映画

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 まだ子供で、作品の裏に込められた崇高な精神性を理解しえなかった私も、「必殺とはレントゲンの出てくる時代劇」という認識をもって作品に接していた。このレントゲン撮影は当然のことながらスタッフ間でも好評で、後のシリーズにもたびたび登場することとなる。

催眠術を使ったゾッとする殺し技「あなたは鳥です」

 奇抜な殺し技はなにも〝レントゲン殺し〟ばかりではない。他にも、凝った設定や小道具を使ったビジュアル的に面白い殺し技で〝必殺シリーズ〟はあふれていた。

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 まず、設定の面白さで魅せるのは、なんといっても『新・必殺からくり人』(77年)の塩八(古今亭志ん朝)の〝催眠術〟による殺しがダントツだろう。

『新・必殺からくり人』で塩八を演じた、古今亭志ん朝さん。© 文藝春秋

 噺家で、その巧みな話術をいかして聞きこみがもっぱらの役割の彼が、ごくまれに殺しを行う時の必殺技がこれである。

 その見事なまでの〝語り〟によって催眠状態になった相手を屋根の上に誘いだし、「あなたは鳥です。さぁ、飛んでみましょう」という具合に、落下死させるこの技は、笑った後で、結構ゾッとさせられる。

 映像的には、塩八が話していると周囲が暗くなり、やがて暗闇に赤い唇だけがクッキリと浮かぶようになる。その唇のアップだけが語りにシンクロして闇のなかで躍る様は、かなり無気味なものがあった。

 レギュラーメンバーの誰かが殉職するのが必殺シリーズ最終回の慣例となっていたが、この塩八は最終回を待たずして死亡してしまい、最後の最後までわれわれ視聴者のド肝を抜いた。落語の高座の最中、銃で撃たれた傷が悪化して絶命するという最期を迎えるが、死の淵にいながら、なおも語りを辞めない塩八の死にざまには、崇高なる芸人魂が息づいており、スタッフが塩八というキャラクターにたくした芸術性の高さがうかがえる。

古今亭志ん朝さん。© 文藝春秋