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キセルも殺人の道具に。スタッフの知恵が詰まった“超兵器”の数々

 もうひとつ、小道具の凝りようも本作には欠かせない重要な要素だった。

 そもそも第1作『必殺仕掛人』の、梅安の武器・針からして小道具の面目躍如といったところだった。ふつうの鍼灸用の針では小さすぎて画面映りが悪いため、実際に使用されたのは〝畳針〟を研いだもので、撮影が全部アップするまでに用意された針の数は、かなりのものだったという。

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 続く『必殺仕置人』の棺桶の錠は〝手槍〟を相手の首筋にブチこむ殺し技を披露した。その手槍が美術スタッフご自慢の一品で、普段はスティック状になっている六角形の真鍮の棒が中央から真っ二つに割れて、なかから短い槍が顔をのぞかせる。槍のついた方の一片をそのまま逆さにしてもう一片につなぎ合わせて完成だ。棒2つをくっつける時のカチャカチャッという効果音(というよりは、実際にそういう音がしたのだと思うが)が小気味良く、メカフェチの男性にはたまらないものに仕上がっている。

必殺シリーズDVDコレクション 18号(販売元:デアゴスティーニ・ジャパン)。ジャケットの人物が棺桶の錠。

 後を受けた『助け人走る』では、仕込み針の施された〝キセル〟が登場。無類の女好きの元侍、いまは坊主頭の辻平内(『水戸黄門』でおなじみの中谷一郎)が操る武器で、彼のいまひとつの顔である〝煙草好き〟という設定をいかして考案されたものだった。

 雁首を抜くと鋭い針が顔をのぞかせ、そのまま相手の眉間に突き立てるという代物で、煙を吹かしながら余裕で標的に近づく平内の姿が、異様にカッコ良かった。

 以降も、赤く焼いた針や、鋭く削った竹串、枕作りのヘラ、一回こっきりの竹製の鉄砲など、スタッフの知恵を絞りに絞り抜いた〝超兵器〟が続々登場した。

 次にどんな武器が飛びだすかだけでも、視聴意欲をそそられたものだった。後年、シリーズが『仕事人』で定着してしまったことへの不満のひとつに、奇抜な殺し技が登場しなくなったことが挙げられる。

 若いOL層に視聴対象が移行したことを敏感に感じ取ったスタッフが、映像的な美しさのみを追求するようになったためで、〝守り〟に入った製作体制からは、以前のような破天荒な殺し技はついぞ生みだされることはなかった。

 必殺シリーズで印象に残った必殺技を紹介してきたが、この型破りな映像を生みだすチャレンジ魂こそが、作品を支えたスタッフ自身のTV界におけるレジスタンスであったことを忘れてはならない。それこそが、いまのTV界に欠けているものなのだから……。

※この記事は、『70年代カルトTV図鑑』に収録している「必殺シリーズ」の章を一部抜粋・加筆の上、転載したものです。

70年代カルトTV図鑑 (文春文庫)

岩佐 陽一

文藝春秋

2001年4月10日 発売