文書の内容は、
「有給休暇は労働者の権利であり、認めるべきであること」
「自分たちは何年も真面目に仕事をして、お客様からの評判もいい。今回の件をいつも食堂を利用してくれている得意先の部長さんに相談したら、『有休は君たちの権利だから、それは会社がおかしい』と言っていた」
「この件については、労働基準監督署に相談しようと思っている」
といった内容が書かれていた。会社側が、あわてて顧問弁護士に相談すると、「ルールだからと言って有休を認めないのはおかしい。姪の結婚式という特別な事情なんだし、与えるべきだ」と指導され、会社も非を認めて仕方なく2人とも有休を取ることを認めた。
要求がエスカレートしていき…
これで一件落着かと思ったのだが、Fはこの件があってから、何かにつけて会社に反抗的な態度を取るようになった。会社が他の現場で人が足りないので、応援を頼んでも、
「自分は行きたくない」
と言って、絶対に協力しない。新しい作業手順を教えようとすると、
「現場の事も知らないで、勝手なことをするな」
と反発する。Fは、その他にも、
「パートにも賞与を出すべきだ」
「社長は会社の金で、毎晩クラブへ行って、豪遊している」
と、批判的な言動を繰り返すので、会社も困ってしまい、妥協案として賞与の支給なども一部認めた。このことで、Fは、一部のパート従業員から頼られる存在となり、その期待に応えようと、ますます要求がエスカレートしていった。管理部の人間が何を言っても聞かなくなり、困り果てて私のところに相談に来た。
Fと会社との間にコミュニケーションがきちんと取れていないと考えた私は、Fと社長、それに管理部の人を交えて話し合いをするように勧めた。話し合いの場で、Fは、
「皆が自分を頼りにしている。自分が会社に言うべきことを言わないと」
と言っていた。Fは、会社と対峙するために、労働法についてもかなり勉強したようだった。社長がうっかりした事を言うと、
「労働基準法では、こうなっている!」
などと、法令集を片手に反論する。
原因は不適切な労務管理だが…
Fが社長とやりあっている姿は、何だか活き活きとして見えた。そもそものきっかけは、会社側の不適切な労務管理が原因だ。しかし、そのうちFは、どうでもいいようなことにも目くじら立てて怒り、会社批判をし、自分がいかに正しいかを力説することで、自分の存在意義を確認するようになっていった。最終的に、Fは自己都合で退職するまで、会社にさんざん反抗し続けた。