目を瞑って語りだす白石
そこで白石は目を瞑り、独り言のように切り出す。
「いま思えば、当時の生活にはよっぽど不満があって、それを打開したかったんでしょうね。父への借金があったし、家で父から『就職しろ』って言われてて、居場所がなかったんで。一刻も早く家を出たかったんです。その借金がなかったら、全然違うと思いますね。あと、スカウトをやってなかったらとか……。まあ、イフ(もしも)の話をしてもキリがないですけど…」
伸び放題の髪の毛で瞑目して体を揺らす彼の姿に、顔も体型もまったく違うが、一瞬、麻原彰晃が重なる。
「だから、父への借金を返したり、父から自立して、マトモな生活をするための強盗殺人でしたね。警察にもそう話してます」
「調べでそう言ったんだ」
「警察は強盗強姦殺人で押印したら、次の日から全然態度が違いました。それまで笑みはなかったのに、急に『暑くない?』とか『お茶飲まない?』とか……」
「検察は?」
「検察は最初から優しかったです」
「50万なり100万なり持ってると知ったら殺してたかも…」
話題が少し逸れたため、私は、「それにしても、XさんとAさんと同時進行で付き合うのって、大変じゃなかった?」と尋ねた。
「正直、忙しかったです。朝までラブホで、次の子と待ち合わせたり。両方とも、おカネになりそうだったから。ただ一人目(Xさん)はラッキーなことに、相手の貯金を知らなかったから(殺さなかった)。もし、50万なり100万なり持ってると知ったら、殺してたかもしれないです」
平然と物騒なことを言う。だが、彼なら現実にそうしたことだろう。そこで面会時間があと5分であることを告げられる。
事件の話を切り上げ、拘置所支給の半袖、半ズボンの服を着ていることの多い彼が、今日は同じペパーミントグリーン色の長ズボンであることに触れた。
「いや、部屋が寒いんすよ」
「あ、そうか。冷房が効きすぎてるんだ」
「そうですね。もうガンガンに入ってるんで」
そんな会話のあと、次回の面会日についての打ち合わせを済ませ、面会を終了する間際になって、彼は以下の言葉を残している。
「そういえば今日、女の記者が来てました。(彼女と会うかどうか)悩みましたよ。23歳ですよ! まあでも、小野さんは優先しますから。橋本環奈が来ない限りは、優先しますよ」
面会は一日一組限りだ。私が立っているのは、薄氷の上なのかもしれない。
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