神奈川県座間市のアパートの一室で、クーラーボックスの中から切断された頭部など9人分の遺体が発見された事件を起こした白石隆浩の死刑判決が2021年1月5日に確定した。常人では到底理解しえない残虐事件を犯した男は、自身の判決を待つ間、いったい何を考え、どのように過ごしていたのか。
ノンフィクションライターの小野一光氏が、獄中の白石隆浩と行っていた対話をまとめた著書『冷酷 座間9人殺害事件』(幻冬舎)に、その様子が詳しく記述されている。ここでは、同書の一部を抜粋し、世間を恐怖に陥れた凶悪事件の加害者の素顔に迫る。(全2回の1回目/後編を読む)
※本稿にはショッキングな表現が多出します。ご注意下さい。
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不仲な父との二人暮らし
白石の犯行を模倣した事件が発生したことが報じられた──。
8月5日、神奈川県横浜市で女子高生を1カ月にわたって自宅に監禁したとして、会社経営者の男(44)が逮捕されたのだ。悩みを抱えた女性を狙った犯人は、「座間の事件に影響を受けた」と供述しているという。
8月12日の7回目の面会。この日は立川拘置所での面会希望者が珍しく混み合っているようで、13時過ぎに到着したが、白石と面会できたのは14時5分頃だった。
私は面会室に姿を現した彼にまず、「聞いてると思うけど、模倣犯が出たねえ」と言った。
「え? そうなんですか? ラジオで聞いてなかったんで、知らないです」
そこで私は事件の概要を説明する。
「へーっ、すごいですね。よく1カ月も……」
感想はそれだけだ。白石はすぐに別の話を切り出す。
「あの、ゲームをやってない小野さんにお願いしたのは、間違ってました……」
前回、彼に頼まれて差し入れた、RPGに関する本の話だった。どうやら私が差し入れた本は、まったく好みではなかったらしい。
「もう次からゲームの本はいいんで、今度は画集をお願いしたいんですけど……。風景画とか、歴史的なものでもいいです。もう、国内外を問いません。ちゃんと絵の勉強をしようと思って……」
「わかった。あ、今日は橋本環奈の写真集と、あと前に買ったけど入れてなかった、将棋の戦術書を入れといたから」
「ああーっ、ありがとうございます」
白石は深々と頭を下げる。その日、私が差し入れたのは、橋本環奈ファースト写真集『Little Star~KANNA15~』(ワニブックス)と『渡辺明の居飛車対振り飛車Ⅰ』(NHK出版)だった。私は言う。
「次回は深キョン(深田恭子)の写真集を入れるからね」
「いやあ、楽しみだなあ。深キョンっていくつくらいですかねえ? あれはスゴイ、あれはかわいいなあ……」
白石はいかにも楽しみといった声を上げた。
「うーん、30代半ばくらいかなあ……(*実際は37歳=取材時)」
私は適当に答えると、話題を事件のことに切り替えた。
まずは前回の面会で終了直前に話が出た、最初の殺人の前に知り合い、交際していながら殺害しなかったという、32歳の女性について。
「その人は、仮釈放で実家に戻ったあとに、SNSで知り合ったんです。仮釈放のときは父が身元引受人で、怒られたけど、しょうがないなって感じで、実家にいました」
「たしか、両親が離婚していて、お母さんが妹を連れて家を出たことは、その頃に知ったんだよね。家でお父さんに離婚の理由とかは聞かなかったの?」
私は少し話を脱線させ、彼の家族の話を持ち出した。