文春オンライン

デビュー戦は2回57球6失点…それでも野村監督が田中将大の活躍を確信した理由とは

『頭を使え、心を燃やせ』より

2021/03/25
note

運を育て、運命を変える

「運が強い」とか「運が弱い」という表現をよくするが、じつは運の芽ともいうべきものは、誰もが平等にもっているのではないか。それでは、なにが運の強さと弱さを分けるのかといえば、いま述べたような作業、努力をどれだけしたかだ。運の強さとは、誰もがもっている運の芽を育てるために、どれだけ努力を重ねたかで大きく変わってくるのだ。

 そして、そうやって獲得された運の強さによって、運命もまた、変わってくる。運と運命は同じようで違う。もっている運は同じであっても、育て方で運命は違ってくる。逆にいえば、運命は運の育て方で変えられるのである。

 生まれた環境によって運命は大きく左右される──そういう反論もあるだろう。「努力だけでは運命は変えられない」と。

ADVERTISEMENT

 しかし、私の家も決して恵まれていたわけではなかった。それどころか、赤貧洗うが如しといっても過言ではなかった。私はなんとかしてそこから抜け出そうと、少しは才能がありそうな野球を選び、人より努力を重ねた。

 もちろん、運が味方してくれたことも多々あった。だがそれは、「誰かが見てくれている」と信じ、どんなときでも努力を怠らなかったからだと私は確信している。日々の努力が私の運を育て、運命を変えたのだ。運命を変えるのは、決して不可能なことではないのである。

闘争心なき者に成長なし

 楽天の監督として2年目のシーズン。高校を出たばかりの18歳のルーキー田中将大を、私はいきなり先発でデビューさせた。しかも敵地に乗り込んでの福岡ソフトバンクホークス戦だ。

©文藝春秋

 田中は打ち込まれた。2回57球で6失点のKO。しかも、デビューから3試合連続でKOされることになるのだ。

 ある程度予想されたことだから、かまわなかった。見たかったのは、彼がどんな顔をしてマウンドから降りるかだ。