昭和34年(1959年)創刊の総合週刊誌「週刊文春」の紹介サイトです。最新号やバックナンバーから、いくつか記事を掲載していきます。各号の目次や定期購読のご案内も掲載しています。

2021/03/19

「次はお母さんと一緒に来てね」

 保育園を見学しに行ったとき、それを象徴するような印象深い体験をした。その日は妻の体調がいまいちだったので子供と留守番してもらい、私、つまり父親ひとりで複数の保育園を見に行ったのだ。

 ある保育園で見学を終えて帰ろうとしたところ、園長先生に「次はお母さんと一緒に来てね」と声をかけられた。

©iStock.com

 最初は意味がわからなかったが少し会話をして様子を窺ってみると、「男親であるあなたには決定権がないだろうから、きちんと決められる妻を連れてまた見学にくるといい」と言われていたのだ。もちろんそこまで直接的には言われていないが、大意はそうだと受け取らざるを得ない会話内容であった。

 私は家に帰ったあと、子供を抱っこしながら過去の出来事を思い返していた。自分はいわゆる“新米パパ”なわけだが、それでも育児の世界に歓迎されていないと感じることが多々あったのだ。

沐浴練習での出来事

 産院の沐浴練習があった際は喜んで参加したのだが、実際はほとんど妻に教えるような雰囲気であった。仕方なくこのときは手伝う側に回ったわけだが、結局子供を風呂に入れるのは私の担当なわけで、あのときもっとでしゃばるべきだったと感じた。

©iStock.com

 地域の保健師が家に来たときもそうである。保健師の方は子供の様子を見て、妻の心理状態を聞き取り帰っていった。夫はまったく蚊帳の外だが、これはそういうものだろうと思っていた。

 役所で出生届を出したときのことも思い出す。出生届を出すとちょっとしたお祝いをもらえたのだが、それを選ぶとき「記念品に関しては、家に一度帰って奥さんと相談してもいい」とうながされた。最初は単なる親切心かと納得していたのだが、それはおかしいだろう。大した記念品でもないのだから、そのくらいひとりで決めろという話だ。

 結局のところ、私という父親は軽視されていたのではないか。

 しかし、こういった対応は合理性を重視した結果なのかもしれない。

 保育園の見学会で周囲を見ると、女性が子供と一緒に見学にきているケースが多く、次に夫婦できていることが多い。そもそも保育園の見学は平日の昼間なので、見に来る男親が少ないのだろう。

 沐浴の練習も、地域の保健師が家に来るときもすべて平日の昼間であった。私のような人間はともかく一般企業に勤める会社員の父親の場合、現状は平日の昼間に時間の捻出をするのが難しく、ゆえに各施設の人々も母親を狙って動きがちなのではないか。

z