身長差・キャリア差を生かした“ラブコメプロレス”の『恋つづ』
恋愛ドラマは今、ドキュメンタリー的にリアリズムを組み込んだ「実戦格闘技型」と、ファンタジーの中でエンターテインメントを追求する「プロレス型」に二極化しつつあると思う。映画ランキングのトップを2月末まで5週連続で走っている、坂元裕二脚本の『花束みたいな恋をした』は前者、『恋つづ』は後者の典型と言えるだろう。
重要なのは、格闘技とプロレスの観客が必ずしも分離せず双方を楽しむように、恋愛ドラマにおいてもリアリティ型とエンタメ型の観客は相反しない点である。現実の恋愛の難しさ、恋人同士の意識の差をリアリティ・格闘技型で噛み締めながら、エンタメ・プロレス型の「楽しさ、気持ちよさ」も楽しむ観客が多くいるということだ。
前者の観客がリベラルで意識の高い層、後者の観客が保守的で遅れた層というような分類は間違いであり、それは1人の観客の心の中にある両面のようなものだ。
上白石萌音の「受けの演技」は、『恋つづ』ラブコメプロレスのリングの上で遺憾なくその力を発揮した。魔王と呼ばれるドS系イケメン医師と、彼に恋するドジで不器用な看護師。まるでWWEのように、ロープに振られれば全力で戻ってきてラリアートで一回転する王道の恋愛プロレスである。2人の身長差、俳優としてのキャリアの差までもハンディキャップマッチとして完璧だ。
「や、厄介岩石⁉」萌音の絶妙なリアクション演技
『恋つづ』第2話で佐藤健演じる天堂浬は、上白石萌音演じる佐倉七瀬にむかって「どこがいいんだ、こんな厄介岩石」と言い放つ。
もねねんに向かってやややや厄介岩石だと。上白石家の御令嬢をつかまえてなんという言い草であろうか。政治家の発言であれば「えー、岩石というのは医療現場の流れを堰き止めると言った意味の男女問わない比喩でありまして」と弁解したところで内閣総辞職は免れない所であろう。
しかしこれは恋愛プロレスというファンタジーのリング上でのマイクパフォーマンスであり、上白石萌音が「や、厄介岩石⁉」と絶妙の「受身」をとるリアクション演技によって観客はマットの上に安全に着地することができる。
佐藤健なら何を言っても許されるのか、と森喜朗氏も納得できない気分ではあると思うが、それがフィクションと現実の違いなので諦めて辞任してほしい。もうしましたね。
『恋づつ』が回を追うごとに視聴率を上げていった理由には、佐藤健の魅力や演技力ももちろんのことだが、相手役の佐倉七瀬を演じた上白石萌音の視聴者受けの良さというのも大きかったと思う。上白石姉妹に共通する特徴として「受けた教育が顔に出ている」というか、たとえ役の上でドジや失敗を演じても根の部分が真面目でちゃんとした子であることが何となく伝わってくるところがある。