順位戦のB級1組は、「鬼の棲み処」とも称される。

 最上級のA級から降格してきたかつてのタイトルホルダーたちと新進気鋭の若手が交錯する場所。

 来期から初めてA級に昇格する山崎隆之八段(40)は、そのB1に13年間いた。昇級することもなければ降級することもなく、まるで牢名主のように独創的な棋風で若手やベテランとしのぎを削ってきた。

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 山崎八段に「鬼の棲み処」の居心地、A級にかける想いを聞いた。

山崎隆之八段 ©中田絢子

◆ ◆ ◆

危機感と調子が連動している

――13年いたB1からA級へ。どんな感慨をお持ちですか。

山崎 「やったー」という気持ちはないですね。去年はB1で3勝9敗で、本来ならB2に落ちてしまっているような成績ですから。

――同じ3勝9敗の棋士が3人いて、いわゆる「頭ハネ」の順位の関係で山崎さんが降級を免れたと。

山崎 そうです。しかも3勝したうちのひとつは相手が五手詰めを見逃していたからで、実質負けです。昨年度は中盤くらいから完敗するような将棋が続いて、はっきり力が足りないと思う内容でした。

――それが今期は初戦から5連勝で、最終局を待たずに昇級を決めました。復調のきっかけはなんですか。

山崎 私は危機感と調子が連動しているところがあります。今期は降級の可能性が高かったので、1局目からかなり集中して臨めました。それが降級の可能性がなくなったとたん、知らず知らずに負け始めまして……。

 11月ごろに早指し将棋で手ひどい逆転負けをしてしまったんですよ。プロが見れば「弱い」とわかってしまうような。そこから「あんな将棋はしたくない」とまた危機感が自分の中に芽生えてきて、成績が上向いてきました。将棋の内容もそうなんですが、自分から背水の陣を敷かないとダメなタイプなんです(笑)。

2月4日、B級1組・久保利明九段との対局では敗れたものの、競争相手にも黒星がついてA級昇級が決まった 写真提供:日本将棋連盟

B2は、昭和の空気も残っていてノホホンとしていた

――B1は「鬼の棲み処」と呼ばれたりしますが、他のクラスと雰囲気は違うものなんですか。

山崎 たしかにけっこう違います。私がB2にいたころはベテランも多く、昭和の空気も残っていてノホホンとしていました。

 対局も昇級がかかっていると最終戦が近づくにつれて頑張ろうと気合いを入れていたんですが、それ以外はまあ、気楽に(笑)。こっちは下から上がってきた若手なんで、降級点も2回連続して取ることもないだろうって。(降級点は)消せるし、落ちることをまったく考えることがなかった。今は棋士の平均年齢が10歳くらい下がっているので、そんな余裕はないと思いますが。