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裁判では「改めてお見舞いに行く」

 判決は、辻氏について「過失は比較的重大である上、その結果は極めて重大である」「被害者は、落ち度がないにもかかわらず、前記障害を負ったものであり、その無念さは察するに余りある」としながらも、「今後は、改めてお見舞いに行くなど、被害者及びご家族に対し、誠心誠意対応していく(中略)などと述べており、反省の態度を示している」という事情も考慮して、「直ちに被告人を実刑に処するのが相当であるとまではいえない」として執行猶予を認めている。

 しかしその後、辻氏がAさんのお見舞いに家を訪れることも、両親に連絡をすることも一度もなかったという。

 事故の損害賠償についての民事訴訟も行われたが、話し合いの末にAさん側の請求を辻氏がすべて受け入れる形で決着。2017年6月23日に保険会社からAさん家族のもとに、億単位の多額の賠償金が振り込まれている。

テレビ番組にも頻繁に出演している(2018年10月23日 本人Instagramより)

 その後、辻氏は若手経営者として脚光を浴びるようになり、SNSやメディア出演で多くの人の目に触れる機会が増えた。テレビに出演する辻氏を見るたびに、夫妻はチャンネルを変えたという。介護は9年目を迎えていた。

「胃ろうになると聞いた日の夜は涙が止まりませんでした」

 遷延性意識障害の介護は過酷なものだ。

 床ずれを起こさないために数時間に一度は体勢を変える必要があるが、Aさんは180センチと大柄なので、介護者が1人ではそれすら難しい。Aさんの両親は夜間も交替で起き、喉が詰まらないように痰の吸入もする必要がある。

 食事は口から摂取することはできないので胃に管を通して注入する形だ。プロテインドリンクのような液体を手に、Aさんの父は力なく笑う。

胃ろうでの食事の様子 ©文藝春秋

「お腹から入れるのに、バナナとか一応味があるんですよ。食事ひとつとっても大変です。ゲップができないからお腹の空気を抜いて、体の緊張を解く薬と白湯を注入してからようやく食事を点滴のように流し入れるんです。もう10年近くやっているのにたまに失敗することもあります。胃ろうになると聞いた日の夜は涙が出て止まりませんでした。もう大好きなカレーや唐揚げを食べられないのか、と」

 Aさんが一日を過ごすベッドサイドには、事故直後に友人たちからもらったという「おい! Aっ がんばれ!! みんながついてるから!!!」と書かれたコルクボードが飾ってある。「親が言うのも恥ずかしいですが、Aは人気者だったんですよ。わざわざ学校を休んで面会に来てくれた友達もたくさんいました」(Aさんの父)

Aさんに寄せられた友人のメッセージボード ©文藝春秋

 同じ2016年頃から、Aさんの両親は辻氏のSNSやYouTubeに対して何度もメッセージを送っていた。数年にわたって返信は返ってこなかったが、2020年5月、唐突にFacebookで反応があったという。