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 サイトで見た印象的なフレーズ。「予約時間ちょうどに来てください。10分前でも10分後でもダメです。ちょうどその時間に」。なので早起きして散歩を兼ねてブルックリンを歩く。早めに行っちゃうと現場を混乱させちゃうなと時間を潰して。

 それでも12時10分、つまり10分前には現場に到着してしまう。接種場所は小学校。大型の箱だ。受付に行って驚いた。長い列が出来ている。時間通りじゃなかったのか。その列を後ろへ後ろへと歩く。2キロくらいある。

1回目接種時列の最後尾(筆者提供)
1回目、列は徐々に進む(筆者提供)

 

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 末尾近くにいた若い男の子に「これ予約をした人の列なのかな?」と尋ねると「そうだよ。俺なんか11時だぜ」と両手を広げて戯(おど)けて見せた。あれれ、相当なオーバーブッキングか。年配の親父さんが(僕より年下かもしれないが)「4時間かかるね。もう離脱する」と叫んで帰って行った。前のカップルは「だってさ。どう思う?」「どうにかなるでしょ?」。

 腕章をした年齢も肌の色も様々なスタッフたちが代わる代わる寒空に震える僕たちを励ましにくる。

「みんなワクチンを受けられて幸せかい?」「寒くて凍えそうだけれどまだ幸せかい?」

「いえーい!」

 まるでロックコンサート的な盛り上がりだ。僕はスマホの画面を指先で動かして別の日別の場所を再指定して出直そうとトライしていたが、このコール&レスポンスを目の当たりにしてこのまま列にいてしばらく様子をみることに決めた。

悪夢のトンネルから前へ

「コーヒー買いに行くんだけど、欲しい人いる?」。そんな風にだんだん見知らぬ人に話しかけている人も現れる。目が合うとニコッと笑い、「もうすぐ次の角を曲がれるね」「きっと予想より早いかもよ」。実は僕はトイレに行きたくてムズムズしていたのだが、不思議とみんなと一緒ならそれも我慢できた。

(筆者提供)

 とにかく共に耐えている。あのパンデミックの家の中の孤独時間に比べたら、そばに人がいる安心感だけで大概のことは乗り越えられる気がした。あの悪夢のトンネルから僕たちは少なくとも外へ出て前へ進んでいる。感染率45%のエリアに住む僕もコビッドのいる日常を受け入れ始めている。僕たちは少しずつ前へ。「ねえ、スマホの電池無くなりそうなんだけど、ここで切れたらシャレにならない、充電させてくれない?」「ああ、それはかわいそうに。私のを使って」。なんだか運命共同体だ。

 ワクチンを終えてヒーローのようにドアを開けて外へ出てくる人を僕らは羨望の眼差しで眺める。自分もあと30分くらいでこのドアから外へ出られるのだろうか。その時どんな気持ちか。