接種の日の朝、QRコードの画像がスマホへ
接種の日の朝、「アレルギーはあるか」「妊娠しているか」などスクリーニングに答えると、QRコードの画像がスマホへ送られてくる。列の最後の直線コースになると、QRコードをもらってない人だけが質問される。僕はすでにゲット済。入り口が見えてくるとコビッドワクチンのポスターと記念撮影をする心の余裕ができる。口笛を吹きながらぱちっと撮ったりお互いに撮影しあったり。中へ入ると「ビデオ撮影は禁止だよ。写真は撮影してよし。でも自分自身が写ってる写真限定にしてください」と手描きのイラスト付きの貼り紙があちこちに。なんだか慌てて学祭のポスターを制作したノリ。6フィートをしっかり守りながら接種会場であるバスケットコートのある体育館へ。
明るい照明の下に30ほどテーブルが等間隔に設置されていて、各々で接種が行われていた。それぞれのテーブルに専従看護師がいて次の接種者を待っている。入り口のガイダンスのスタッフから指示がある。
「10番へ行って」「今混んでる。ちょっと待って」。そんな感じ。僕は3番。コリアンの女性看護師が僕の接種を担当してくれた。「ワクチンにアレルギーとか出た経験がある?」「打った場所はちょっと腫れたり痛みがあったりするかもしれない。でもすぐにひくので過剰に心配しないで」「生年月日と名前をもう一度?」「さあ、どっちの腕にしましょうか?」。
テーブルの真ん中に丁寧に置かれた小さな瓶、これがワクチンか。僕用に準備され、彼女は注射器や手袋など新品を用意し、改めて「怖がらなくていいのよ」と僕の気持ちを配慮し笑う。気がついたら一瞬で終了。チクッとしたそれだけ。「こんな大役を引き受けてくれてありがとう」「こちらこそワクチンを受けてくれてありがとう」。穏やかに言葉を交わし、僕は体育館を後に。
出るとスタッフがいて、「ワクチン打った? このまま矢印に沿って進んで」。講堂に来ると再び「6フィート保って。ここで待って。気分は? じゃあ、15分、このどこかの席でゆっくり深呼吸して時間を過ごしてから次の予約をすぐにしてくださいね」と言われる。
席は20人がけの長椅子の端と端に2人だけだ。その2人の間の18席にはテープが貼られているので誰も座れない。昨日からの急展開で今ここにいる自分を不思議に思いながら15分を終えて外へ出る。
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呼吸が苦しく、黒目が動かない。2度のワクチン接種後、何が起きたか――。NY在住ジャズピアニスト・大江千里さんが自身の経験を綴った「特別手記 『副反応』僕は意識を失った」全文は「文藝春秋 電子版」と「文藝春秋」2021年4月号でお読みいただけます。
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