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薬物への誤った知識

 ワイドショーは、「何年間にもわたって、このような薬物を使っていたのです」などとヒステリックに騒ぎ立て、「こんなに長い間使っていたのだから、相当依存症が進んでいるだろう」などと思い込みで勝手に「診断」をする。さらには、「こんな心の闇が」などと親子関係や生い立ちまでほじくり返す。

 薬物問題を考えるとき重要なことは、科学的事実に基づいて、正しく薬物と薬物依存症について理解することである。薬物への嫌悪感を植えつけようとするあまり、誤った知識で「洗脳」することが良いことだとは思えない。違法薬物を使っても必ずしも依存症になるわけではないという真実を知ることによって、薬物使用者に対する危険視やバッシングが緩和されるという望ましい側面があることは間違いない。

 もちろん、この「不都合な真実」は、本当に慎重に考えないといけない。なぜなら、「たった20%しか依存症にならないのか。ならちょっとやってみよう」という人が出てしまう危険もはらんでいるからだ。

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 しかし、これらの薬物を用いることによって、3人に1人、ないし5人に1人の割合で依存症になるということは、何も軽い事実ではない。全員がたちまち依存症になるわけではなくても、これは相当に大きな数字であることには変わりがない。

薬物乱用防止のために大切なこと

 薬物乱用防止のための予防教育は大事である。しかし、薬物の害や怖さを教えるだけの「恐怖メッセージ」に重きを置いた知識教育の効果は限定的である。予防効果が大きい方法は、スキルを中心に組み立てたものだというエビデンスがある。

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 たとえば、薬を誘われたときに断るスキル、ネガティブな感情への対処スキル、ストレス対処スキルなどを学習させることである。さらに、ハーシが示したような、四つの社会的絆を育てることも有効である。

 これらの方法は、「ダメ。ゼッタイ。」一辺倒とは違って、「副作用」があるとも思えない。したがって、今後の薬物予防教育は、誤った事実で洗脳することでいたずらに恐怖心を煽るような方法から、より科学的根拠に導かれた方法へと転換すべきではないだろうか。

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