逆に考えてみよう。愛着のある人も仲間もなく、毎日暇を持て余している。打ち込めるものもなく、将来設計も持てない。こうした人の心には薬物の誘惑が忍び寄ってくるし、日常的な満たされない感情や不安などネガティブな感情を紛らわせようとして、手っ取り早い「快」を求めて薬物の力を借りようとするかもしれない。
愛着の対象がなく、打ち込める活動もないというのは、まさに「孤独の檻」にいるラットと同じである。
薬物依存症の心理的リスク要因
アルコール依存症には「認知のゆがみ」が生じる。アルコールの「効果」に過剰な期待を寄せて、「ストレスを晴らすには飲むしかない」などという過剰な「期待」をすることがその代表的なものである。
もちろん、これは薬物依存症にもあてはまるが、薬物依存症に特に顕著な「認知のゆがみ」はほかにもある。そのなかで近年注目を集めているのが、時間展望である。
時間展望とは、個人が時間に対して抱く認知のことをいう。アメリカの心理学者ジンバルドは、時間展望を、過去指向型、現在指向型、未来指向型に分けた。このなかで、現在指向型は薬物使用や犯罪などの逸脱行動との関連が大きいことを指摘した。現在指向型とは、時間展望のスパンが短く、目先のことに価値を置き将来の結果を考慮しないタイプのことである。
目先の快楽に価値を置く傾向
さらに、時間展望と関連する認知傾向として、遅延価値割引がある。これは、将来の大きな価値(遅延大報酬)よりも、目の前の小さな価値(即時小報酬)に飛びつきやすい傾向をいう。つまり、将来遅れてやって来る大きな価値を割り引いてとらえやすい傾向である。このような認知傾向もまた、薬物依存症、喫煙、非行・犯罪などとの関連が指摘されている。
たとえば、薬物依存症者は、薬物による快楽という目先のことに価値を置き、将来の健康、仕事や人間関係などの大きな価値を割り引いてしまう傾向がある。
これらの認知的傾向もまた、薬物依存症のリスクを高める要因である。