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「どうせ俺の金じゃないし」というノリで払ってた

――これまで約9兆7000億円の賠償金が支払われたとのことですが、詐欺師にはいくら流れたのでしょうか?

高木 報道レベルでザッと概算しても、数百億円規模が詐欺師に流れているんじゃないかと思います。

――怪しいなと思いながらも請求を通してしまったケースもあった?

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高木 たくさんあるんですよ。例えば、潮干狩り会場のキッチンカーで月500万円というあり得ない売り上げを手書きの日報で計上してきたケースは、岩崎さんも怪しいと思いつつも払った。とにかく上が「払える方法を考えろ」という方針だったので、通すしかなかったと。

キッチンカーで月500万円売り上げていたという申請も(写真はイメージ。本文とは関係ありません) ©iStock.com

 あと、地方新聞社が押し紙を売り上げに計上して請求してきたり、大手観光グループが山梨の施設まで申請してきたり……。山梨のケースでは、東電の山梨支店長付きの社員から「支店の一番の上客だから」と直々に電話があって、無理やり払うロジックを会計士とともに考えて、トップダウンで支払ったという事例もあったそうです。

 結局、東電は当時、他人のお金を払っている感覚なんです。「原子力賠償機構」という組織から東電がお金を借りて、そのお金を賠償金にあてている。返却義務はあるにせよ、原子力賠償機構の原資は、僕らの払った税金や電気料金。岩崎さんによれば「どうせ俺の金じゃないし」というノリで払っていたようですね。

寝ずに泊まり込みでずっと仕事しているような状況

――岩崎さんも「これは払ってはいけない」と思いつつも、仕方なく払っていたということですね。

高木 はい。それでも岩崎さんは組織の中でも唯一と言っていいくらい、上層部とやり合っていたらしい。岩崎さんは、真面目で性格が細かいんです。特に書類に目を通すのが得意で、原稿の細かい所の確認をしてもらったら、僕より誤字脱字を見つける(笑)。だから書類のミスや詐欺の手口を暴いていたのも納得でした。

――岩崎さんが担当した請求書は何件ぐらいあるのですか?

高木 寝ずに泊まり込みでずっと仕事をするような状況で、3年ほど賠償係を続けて、処理したのは約2000件。支払った額は総額250億円を超えているそうです。