「嘘ばっかり言いやがって」とツバを吐かれた
――岩崎さんは元々、東京・調布の営業センターで料金徴収の事務を担っていた中堅社員でしたね。
高木 そうですね。高卒で東電に入社して、最初は料金徴収係からスタートした人です。震災の後に同僚と東北を旅して、「東電のせいで大変なことが起きている」と身をもって知って、自ら志願して賠償係になりました。さらに仕事が認められて賠償詐欺を暴くことを担当する部署に異動しました。
ところがその後、賠償詐欺の共犯を疑われて書類送検され、最終的には東電をクビになってしまいます。
――もともと、岩崎さんは詐欺を暴く側だったのですね。
高木 岩崎さんはまだ賠償詐欺という概念すらなかった時に、警察と協力して、最初の賠償詐欺事件を暴いているんですよ。そんな方がなぜ共犯を疑われて、東電をクビになったのか。そこが一番描きたかったことですね。
――震災が起きた直後、岩崎さんをはじめ東電社員はどんな状況に置かれたんですか?
高木 震災が起こって電気が不通になった当初は、岩崎さんがTEPCOのマークが入った作業着姿で復旧作業をしていると、「頑張って」などと励ましの声が多かったそうなんです。
でも、原発事故が起こって、それが東電のせいだと分かると、一気に手のひらを返して罵倒される。「嘘ばっかり言いやがって」とか「お前らに払う金はない」とか、ツバを吐かれたりとか、時には生卵を投げられたこともあった。社屋に「東電死ね」という落書きをされたり。今まで誇っていたTEPCOのマークを隠すため、制服は作業現場で着替えるような状態だったそうです。
「ノルマ」をこなすために審査がザルに
――検針員に対しても風当たりが強かったということですね。岩崎さんは賠償係で、どんな仕事をされていたんですか?
高木 賠償金の1次審査は派遣社員、2次審査は社員がやっていたんで、岩崎さんは2次審査で書類に漏れがないかチェックして、上に報告する役目をしていました。東電が「迅速な支払い」を掲げる中、岩崎さんらによる2次審査がおわると、GMがチェックしてハンコを押してもらって被災者に支払われるという流れです。
――「迅速な支払い」のため、支払う側にノルマがあったそうですね。
高木 日に書類を10本通しなさい、20本通しなさいというノルマがあって、それをこなすために徐々に審査がザルになっていったそうです。本書に詳しく書きましたが、その結果、詐欺師が横行するようになっていった、という流れですね。