東電に火の粉がかかるのを恐れて「クビ」に?
――岩崎さんは東電から処分は受けたのでしょうか。
高木 2016年3月11日、ちょうど震災の日に、東電から懲戒解雇を言い渡されました。岩崎さんは辞表を提出して退職金だけはもらおうと思っていたところ、いきなり東電側から懲戒解雇されてしまったんです。結局、東電職員が詐欺に関与したという報道がなされて、東電としてはクビ切りしたかった。東電本体に火の粉がかかるのを恐れて「岩崎切ってしまえ」というようなノリだったと思います。
――その後、2016年11月には、岩崎さんは不起訴処分になります。現在どのような生活を送られているんですか?
高木 その後は生活が困窮していたんですが、何とか派遣の仕事にありついた。それは東電の下請けの仕事だったんです。ただ、この本の単行本を出版するに当たり、派遣元に迷惑がかかるかもしれないと自分から辞めた。その後は、別の派遣の仕事をしていたんですが、コロナ禍で仕事が打ち切られ、今は知り合いの仕事を手伝いながら細々と生活している状況です。
「私たちは岩崎さんに命を救われた」と語った夫婦
――この本で印象的なのが、岩崎さんが賠償係をしている時、被災者に自腹で280万円貸していたというエピソードです。
高木 これは本当に僕もビックリしたんですけど、貸した先は新白河のご夫婦で、樹木のネット販売を行っていた方です。原発事故の影響で樹木が出荷できなくなり、一切収入を失って困窮していた。賠償金は申請から支払われるまで3カ月くらいかかる。その間、お金がないので賠償の手続きの過程で知り合った岩崎さんに相談しているうちに、「つなぎの資金として」と、わざわざ新白河の駅まで現金280万円を持ってきた。
――高木さんはその夫婦にも直接取材されたんですよね。
高木 僕が会いに行ったらはじめは門前払いみたいな感じだったんですけど、岩崎さんの名前を出した途端に「岩崎さんのお知り合いならお話しします」と内情を打ち明けてくれました。近所でも震災を機に鬱になったり、仕事がなくなったりして自殺された方も何人かいらっしゃるそうで、「私たちは岩崎さんに命を救われた」と話されていました。
――そんな岩崎さんが詐欺に加担したとして立件されてしまった。
高木 そうですね。ただ、岩崎さんにも危うい面はあるんです。岩崎さんにも非がないと言えば嘘になる。やはり賠償係という立場上、詐欺師とは分からなくても、一般的なこととはいえ賠償の手続きを外で教えるのは迂闊だったと思いますし、いくら結婚祝いとはいえ、そういった方から金品をもらうべきではなかった。岩崎さんも、そこは本当に後悔してますね。
まだ逃げている詐欺グループはいっぱいいる
――震災から10年たって、あらためて賠償詐欺についてどのように感じますか?
高木 摘発された賠償詐欺は本当に氷山の一角。まだ逃げている詐欺グループが他にもいっぱい居るんです。でも、捜査が難しいのか、やる気がないのか分からないですが、いまも逃げている詐欺グループを捜査する動きは見えない。
岩崎さんも「10年たった今も何も始まってないですね」とこぼしていました。詐欺師が野放しである一方、東電の中で詐欺を取り締まるために尽力した岩崎さんが今のような状態なのは「なにかおかしい」と思いますね。
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この原稿は、「文春オンラインTV」のインタビューを要約した内容です。インタビューは下記のリンクから無料で視聴できます。
文春オンラインTV #70 「女性を紹介してほしい」再婚を望んだ“東電賠償係”はなぜ詐欺師に狙われ、会社をクビになったのか?《福島原発“10兆円賠償”の暗部》