9兆7000億円――。この金額は、東京電力が今年1月22日までに、福島第一原発事故で避難したり風評被害を受けたりした個人や法人に支払ってきた賠償金の総額だ。
東日本大震災から10年。ベストセラー『売春島「最後の桃源郷」渡鹿野島ルポ』の著者、高木瑞穂氏が新刊文庫『東日本大震災 東京電力「黒い賠償」の真実』(彩図社)で描いたのは、その賠償金の詐欺事件に関与したとされて立件された1人の東電職員の姿だ。
本書で描かれた賠償金の杜撰な支払い現場の実態、そこに目を付けた詐欺師たちの手口は、コロナ禍の「持続化給付金」詐欺事件にも通じる。「文春オンラインTV」では高木氏にインタビューし、事件の実態について語ってもらった。
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「ヤクザまがいの人がロジックを作って…」はコロナ給付金と同じ
――そもそもの話ですが、福島第一原発事故の賠償制度について教えてください。
高木 原発事故で甚大な経済的打撃を受けた住民や事業者の救済措置として、2011年9月から始まったものです。東京電力によれば、2021年1月22日までで賠償金請求は延べ295万件、約9兆7000億円が被害者に支払われています。その財源は、我々が払った電気料金や税金が充てられています。
――約10兆とはすごい金額です。この賠償金が税金や電気代だったことを知らない方も多いかもしれません。
高木 震災後に電気料金が微妙に上がっているのは一部の人は感づいていると思うんですけど、多くは電気料金ですね。
――新型コロナウイルスの給付金をめぐる詐欺事件も続いていますから、今にも通じる問題ですね。
高木 コロナの持続化給付金詐欺では、ヤクザが暗躍しているとの報道があると思うんですが、東電の賠償も一緒。ヤクザまがいの人たちがロジックを作って主導したという面があって、その実態を東電職員だった岩崎さん(仮名)の仕事ぶりから暴いている本です。