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「なぜ犯罪者を守るのか」刑事弁護人に対する“批判”に弁護士・亀石倫子が導き出した“答え”とは

『刑事弁護人』より

note

正当な手続きで裁判を受けるために…

 犯罪をしたと疑われて自分が逮捕され、起訴され、裁判にかけられたとする。その過程で、自分の行為が必要以上に捻じ曲げられるかもしれない。実態よりも過度に悪質だと判断されるかもしれない。いくら「真実」を語っても、聞く耳を持ってもらえないかもしれない。さまざまな方法で自白を迫られ、ありもしない「事実」を言わされるかもしれない。いちど被疑者・被告人の立場に置かれれば、どんな有名人だろうと、有力な政治家だろうと、裕福であろうとも、たった一人で国家権力と対峙する、一人の無力な人間なのだ。刑事弁護人がそばにいなければ、正当な手続きで裁判を受けられないかもしれない。

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 被疑者・被告人と捜査機関との間には、アリと象ほどの歴然とした力の差が存在する。捜査機関は強大な国家権力であり、強力な捜査権限に基づいて証拠を集められる。だが被疑者・被告人は身体を拘束され、自己に有利な証拠を集める手段も権限も資金も極めて限られている。

 この圧倒的な力の差を無視して、公平・公正な裁判などできない。そこで、憲法は被疑者・被告人に適正な手続きを受ける権利(第31条)、弁護人を依頼する権利(第37条)、黙秘権(第38条)を保障することで、両者を対等な当事者と位置づけようとする。対等な当事者として公平・公正な裁判が行われなければ、被告人に刑罰を科す判決の正当性が担保されないからだ。

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被疑者・被告人と弁護士の自分は無関係な世界の人間ではない

 こうした手続きのなかで、刑事弁護人は被疑者・被告人に与えられた正当な権利に基づいて依頼される。被疑者・被告人に与えられた権利を最大限行使し、強大な国家権力である捜査機関と対峙する役割を担う。国家権力が適切に行使されているのかをチェックする──それが刑事弁護人の重要な役割なのだ。

 亀石は、被疑者・被告人が自分とは無関係の世界の人だとは思っていない。彼らも自分も同じ社会に生きている。彼らに起きることは、いつ自分の身に起こってもおかしくないと思うと、傍観者ではいられない。