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 できあがった絵画は、千葉みずから木を組んでつくったスタンドに架けられ、展示される。 

 自作の立体物が、描かれることで絵画という平面になる。その平面となった絵画を自作のスタンドに架けて設置することで、展示場に立体の作品が現れる。二次元と三次元を行ったり来たりするような、幻惑的な気分にさせられるのも、千葉作品に触れる魅力である。

 

 描かれているのは具体的なものだけなのに、画面を眺めていると、見知らぬ世界に迷い込んだかに思えてくるのも不思議だ。日ごろ生きている現実界から引き離され、謎めいた場に連れ去られるようなスリルまで味わえる。

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これは「カメのための展示」である

 今展は千葉正也にとって、初の美術館での大規模な個展となる。大きな展示会場には、新作旧作を問わず大量の作品が運び込まれ、一堂に展観できるようになっている。

 なのだけれど。その場に立ってみればだれしも気づく。展示のしかたが、なんだか尋常じゃない。作品の並べ方が、妙に偏っているではないか。

 

 その空間内でいちばん目立っているのは、宙空に延びていく長い長い通路だ。幅は1メートルにも満たないほどで、内側には木片チップが敷かれている。どうやら会場をぐるり一周するかたちとなっているよう。

 室内には千葉の絵画も無数に配されているのだけれど、その画面は通路の側を向いている。会場に足を踏み入れた人が、画面をじっくり観賞するにはあまり適していないような……。

 
 

 それはそうだ。ここでは人間の観賞者が最優先ではないのだから。よく見れば、長い通路の中をガサゴソと動くものがひとつ。一匹のカメだ。この通路はカメの居場所だったのである。