だれかに観てもらいたい。あらゆる絵画はそう願って描かれる。
じゃあ、だれに観てもらいたいのか? それは作品によってちがってくる。
いま東京オペラシティ アートギャラリーには、風変わりな設定の作品群が出現している。
観てもらいたい相手が、ここではまずもって一匹のカメなのだ。
開催中の「千葉正也個展」である。そこでいったい何が起きているのか?
見知らぬ世界に迷い込むような絵画
千葉正也は、絵画表現を志す現代日本のアーティストのうちで、最注目のひとり。彼が好んで描くものは少々変わっている。
紙粘土などを用いてつくった人型のオブジェ。時計、スコップ、観葉植物といった身の回りのもの。この、知らずに見れば「ガラクタ」に見える無数のモノが、描かれるモチーフになる。
それらを千葉はみずから、ひとところに集めて並べる。そうしてできた「仮設の風景」を、画面に描いていくのだ。
寄せ集められたモノは木、プラスチック、金属、粘土といろんな素材でできていて、さまざまな質感を持っている。その一つひとつを、千葉は鮮やかな絵画テクニックによって、みごとに描き分けていく。
世の中はなんと多様な質感に満ちていることか! そう気づかせてくれるところが、まずは千葉の絵画を目にするときの愉しさだ。