生まれて数ヵ月後に乳児院、2歳で児童養護施設へ
「そっか。じゃあ、まず、小さいときのことから聞いてもいいかな。お父さんとお母さんはいるの?」
「お母さんいるんですけど、育てられないみたいで。お父さんいるんですけど、教えてもらっていないんです」
佳奈の子どものころの記憶は、千葉の児童養護施設にいたときからはじまる。正確には生まれて数ヵ月後に乳児院にあずけられ、2歳になり児童養護施設に移ったそうだ。
母親とは、生まれてから数回しか会ったことがないという。育てられないみたい、というのは、なんとなく感じているのか、施設の人にそういわれたのか、直接いわれたのか……。
「お母さんに対してどんな感じ?」
「初めは私には両親がいないんだって素通りできたけど。ほかの子は親と面会しているから、いいなって思った」
誰でも小さいころに友だちのお母さんや近所のお母さんと自分の親を比べて、うらやましいと思ったことがあると思う。だが、親と暮らしたことがない佳奈にとって、うらやましいと感じる親は「面会にくるお母さん」であるということだ。感覚の違いを感じた。
佳奈には妹がいるそうだが、妹は母と暮らしているといっていた。このあたりも佳奈にとっては引っかかっているようだ。
「どうして私だけ育ててもらえないの」と、母に聞いたことは一度もないという。
「お母さんと思えない。他人感覚しかない」
と、表情を変えずに、他人事のようにいった。強がっているのだろうか。本当は母親を求めているのではないだろうか。
佳奈は母親のことをそれ以上話さなかった。
児童養護施設には、なんらかの原因で親と暮らせない子どもたちが暮らしている。虐待、ネグレクトから保護された子もいれば、事故や病気で両親を亡くした子、その理由はさまざまだが、佳奈の場合、育てられないという理由で生まれてすぐに乳児院に、そして2歳から16歳までを児童養護施設で過ごしていたことになる。