「児童養護施設ではどうだったの?」
「いいことなんてひとつもない。悪いことしかなかった」
一瞬、間があき、当時の出来事を話しはじめた。
中学を卒業したばかりで自立を求められた少女
「小学校6年生のとき、めっちゃ勉強してたのに、施設の先生たちに勉強してないっていわれて喧嘩になったりして、自分のことわかってくれてないから、もういいやって」
児童養護施設が嫌だった理由はひとつではなく、毎日の中にいろいろと理由があったようだ。小さな出来事で口論になったり、ときには暴力もあったと話す。
佳奈は自分をわかってくれない大人をシャットアウトし、そのころからリストカットするようになった。
「リストカットすると楽になるの?」
「血がボタボタたれて、うちが死んでも誰も悲しまないと思ってリストカットしてた」
当時を思い出したのか、佳奈の声は少し震えていた。
「そのとき、理解者っていた?」
「まったくいなかったです」
孤独を感じるたびに傷跡は増え、佳奈の腕には痛々しいその名残が残っていた。
「それから、どうして施設を出ていかなくちゃいけなくなったの?」
「高校受験に失敗して、高校に行かないと施設にいれなくて、出なくちゃいけなくって。施設の先生が一緒に探してくれたのが美容院だったんです」
佳奈は中学卒業と同時に寮完備の美容院に就職し、児童養護施設を出て自立することになった。
ほとんどの児童養護施設の子どもたちは高校卒業と同時に施設を退所する。厚生労働省の指導では現在20歳まで施設にいてもよい、となっているが、実際には18歳に満たなくても進学しなかった佳奈のような子は、早く施設を出ていくよううながされる。
つまり、高校に行かないなら仕事を探しなさい。仕事をして収入があるなら自立しなさい、ということだ。退所する子がいれば、新たな入所枠ができる。
しかし、中学を卒業したばかりの15歳の少女にとって、自立は厳しい現実だ。
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