誰もが観光するようなスポットではないが、実は日本の魅力が隠されている場所……。そんな「かくれ里」をめぐった、滞日50年を超えるアメリカ生まれの東洋文化研究者、アレックス・カー氏。
氏の記した『ニッポン巡礼』の中から、東京都心から350キロ離れた離島・青ヶ島について一部を抜粋して引用する。(全2回の2回め/前編を読む)
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本土から渡るには、まず八丈島を経由する
青ヶ島は2014年に、アメリカの環境保護NGO「One Green Planet」の「死ぬまでに見るべき世界の絶景13選」に選ばれたことで、一躍海外からの注目を集めました。海外からの観光客と同時に日本人観光客も増えましたが、この島は基本的に、大勢の観光客を受け入れる態勢がありません。
本土から渡るには、まず八丈島を経由する必要があり、八丈島からのフェリーの就航率は前述のとおり5割ほどです。ヘリは定員が限られ、コストも高い。おのずと島を訪れることができる人は限られます。
現在、来島者の多くは公共事業の関係者で、島に数軒ある宿泊施設も、観光というよりは、それら業務関係の人たちに向けたつくりになっています。私たちが上陸した日も、フェリーの乗客のほとんどは、島民と作業服姿の工事関係者、あとは役場関係の人たちでした。
今回の視察目的の一つは、島の観光資源を検討することでした。観光客の新たな受け入れ方を考える余地はありますが、現実的に考えれば観光客数を大幅に増やすことはしばらくできないでしょう。
一般に「観光」といえば、お客が来て滞在することをイメージしますが、もっと広くとらえれば、その地を愛してくれる「心のコミュニティ」を育むことともいえます。
日本で考えれば、ただ、たくさんの人が来ることを良しとするのではなく、日本の伝統や文化など、その精神性を理解し、愛着を持ってくれる人を増やすことも観光の目的の一つです。極端ですが、シャランスキーの50の島と同じように、訪れなくてもその人が日本を愛してくれれば、観光の効果は得られるともいえます。
そのような観光コミュニティの形成には、地場産業が重要になってきます。たとえば、私たちはパルメザンチーズのパルマ、ボルドーワインのボルドーなどに行くことはないかもしれませんが、名前はよく知っていて、心の中では特別な場所ととらえています。つまり地方は「人」を迎え入れるだけでなく、「物」からアピールすることもできるのです。そこで、私は島の地場産業を見学させてもらうことにしました。