誰もが観光するようなスポットではないが、実はそんな場所にこそ日本の魅力が隠されている……。そう考えて日本各地の「かくれ里」をめぐったのが、滞日50年を超えるアメリカ生まれの東洋文化研究者、アレックス・カー氏だ。
そんな彼の記した『ニッポン巡礼』の中から、東京都心から350キロ離れた離島・青ヶ島について一部を抜粋して引用する。(全2回の1回め/後編を読む)
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“行ったことがなく、そして生涯行くこともないだろう島々”
私の書斎に離島について書かれた一冊の本があります。著者はドイツ人のユーディット・シャランスキーで、『奇妙な孤島の物語:私が行ったことのない、生涯行くこともないだろう50の島』(河出書房新社)というタイトルです。
その中には太平洋、大西洋、北極海などにある世界各地の離島への航海図が載っています。島については海岸線と主要な地名が書かれているだけで、景色や細かな地理情報はなく、島の歴史やちょっとした逸話が2、3ページほど載っています。この本を何度も読み返しましたが、航海図のアウトラインを見るだけで想像が膨らみ、夢見心地になります。
日本にもロマン漂う島はたくさんあります。「沖ノ島」「壱岐島」「小笠原諸島」「奄美大島」「屋久島」などはその例といえます。幸い、これまでに奄美大島や沖ノ島を巡る機会を得ましたが、訪れたことのない島はまだたくさん残っています。その中でも、ずっと心の一隅にとどめていた島がありました。青ヶ島です。
人々が頭に思い描く「幻の島」が実在する
青ヶ島は東京都の「島嶼部」に属するものの、伊豆諸島の南端に位置し、東京本土からは350キロも離れた離島です。緯度で見ると、和歌山県と四国を越えて、宮崎県ぐらいに位置しています。数年前に初めて見た島の航空写真は衝撃的でした。
南北、東西の距離がそれぞれ約3・5キロ×2・5キロ。面積でいうと6平方キロに満たない小さな島は、周囲を断崖絶壁に囲まれています。地形は、海側を取り巻く「外輪山」と、中心側の「丸山」と呼ばれる「内輪山」からなる二重カルデラで構成されています。この二重カルデラの眺めは世界的にも珍しいもので、人々が頭に思い描く「幻の島」が、まさしくここにあります。
青ヶ島は交通アクセスがきわめて限られることから「神のご加護がなければ辿り着けない島」と、昔からいわれ続けてきました。特別な用がない限り、簡単に行けるところではありません。シャランスキーの本に出てくる島々と同様に、私も憧れとして心の中で思い描くだけでした。