昭和34年(1959年)創刊の総合週刊誌「週刊文春」の紹介サイトです。最新号やバックナンバーから、いくつか記事を掲載していきます。各号の目次や定期購読のご案内も掲載しています。

東京から350キロ離れているのに「品川ナンバー」 “神のご加護がなければ辿り着けない”「青ヶ島」には何がある?

「ニッポン巡礼」青ヶ島 #1

 誰もが観光するようなスポットではないが、実はそんな場所にこそ日本の魅力が隠されている……。そう考えて日本各地の「かくれ里」をめぐったのが、滞日50年を超えるアメリカ生まれの東洋文化研究者、アレックス・カー氏だ。

 そんな彼の記した『ニッポン巡礼』の中から、東京都心から350キロ離れた離島・青ヶ島について一部を抜粋して引用する。(全2回の1回め/後編を読む)

海面から垂直に切り立った青ヶ島の崖 ©️大島淳之

◆◆◆

“行ったことがなく、そして生涯行くこともないだろう島々”

 私の書斎に離島について書かれた一冊の本があります。著者はドイツ人のユーディット・シャランスキーで、『奇妙な孤島の物語:私が行ったことのない、生涯行くこともないだろう50の島』(河出書房新社)というタイトルです。

 その中には太平洋、大西洋、北極海などにある世界各地の離島への航海図が載っています。島については海岸線と主要な地名が書かれているだけで、景色や細かな地理情報はなく、島の歴史やちょっとした逸話が2、3ページほど載っています。この本を何度も読み返しましたが、航海図のアウトラインを見るだけで想像が膨らみ、夢見心地になります。

 日本にもロマン漂う島はたくさんあります。「沖ノ島」「壱岐島」「小笠原諸島」「奄美大島」「屋久島」などはその例といえます。幸い、これまでに奄美大島や沖ノ島を巡る機会を得ましたが、訪れたことのない島はまだたくさん残っています。その中でも、ずっと心の一隅にとどめていた島がありました。青ヶ島です。

人々が頭に思い描く「幻の島」が実在する

 青ヶ島は東京都の「島嶼部」に属するものの、伊豆諸島の南端に位置し、東京本土からは350キロも離れた離島です。緯度で見ると、和歌山県と四国を越えて、宮崎県ぐらいに位置しています。数年前に初めて見た島の航空写真は衝撃的でした。

 南北、東西の距離がそれぞれ約3・5キロ×2・5キロ。面積でいうと6平方キロに満たない小さな島は、周囲を断崖絶壁に囲まれています。地形は、海側を取り巻く「外輪山」と、中心側の「丸山」と呼ばれる「内輪山」からなる二重カルデラで構成されています。この二重カルデラの眺めは世界的にも珍しいもので、人々が頭に思い描く「幻の島」が、まさしくここにあります。

青ヶ島は交通アクセスがきわめて限られる(写真は青ヶ島近海) ©️大島淳之

 青ヶ島は交通アクセスがきわめて限られることから「神のご加護がなければ辿り着けない島」と、昔からいわれ続けてきました。特別な用がない限り、簡単に行けるところではありません。シャランスキーの本に出てくる島々と同様に、私も憧れとして心の中で思い描くだけでした。