何年か前、廃墟を趣味とする人たちの間で、話題になった研究所の廃墟があった。ウイルス等の研究を行っていた巨大な施設で、実験器具等が残され、そっくりそのまま廃墟になっているというのだ。廃墟マニアの私もずっと気になっていたが、しばらくして、運良くそこを管理されている方と連絡を取ることができた。

 思い切って内部を見学させてほしいとお願いすると、「機器や薬品を持ち出したり壊したりしなければどうぞ」というお返事をいただき、早速現地に向かった。

“研究所の廃墟”に落ちていた「バイオハザードマーク」がプリントされたヤバそうな袋

実験をしていた瞬間に時が止まったような……

 第一印象は、とにかくデカい。一見しっかりと施錠されているが、開いている場所を事前に聞いていたので、そこから内部へ入ることができた。非常に立派な建物だが、中は完全に廃墟の状態になっていた。天井板が落ちて配線がぶら下がっているのは、金属泥棒にやられた跡だろう。

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 廊下から室内を覗くと、実験室には多くの機材が残されていた。三角フラスコやピンセットなどが整然と並び、ガラス瓶やマイクロチューブには、何やら液体が入っている。実験をしていたその瞬間に、突然時が止まってしまったかのようだ。

高額な機器がそのまま残っていた
液体が入ったまま放置された瓶

 複数の階にかけて多くの実験室があるので、一つずつ見て回った。私は普段、工業薬品を研究する仕事をしているので、つい設備や器具が気になってしまう。自動分注機や電子顕微鏡など、高額な機器もそのまま残っていた。今となっては使用できない状態になっていて、どうしても勿体ないなぁと感じてしまう。

動物用の薬品を作っていた実験室

 建物内には動物実験を行うためか、手術室もあった。ここでは主に、家畜やペットなど、動物用の薬品を研究・製造していたようだ。ウイルスや細菌の研究も行っていたようで、入口にエアシャワーが設けられている実験室や、バイオハザードマークが掲示された実験室もあった。

入り口にエアシャワーが設置された実験室
ここで動物用の薬品を研究していたようだ

 ちなみにバイオハザードマークは、生物災害を起こしかねない場所に掲示される。廃墟でこれを見るとは何とも恐ろしいが、管理者さんの話によると、危険なウイルスや試薬は全て処分済みだという。それでも、紙製の箱やファイルだけを狙ったかのように、黒カビがビッシリと生えている光景を見ると、とても不安な気持ちになる。強烈な異臭を発している保管庫もあり、慎重に探索した。