『稲川淳二の怪談グランプリ』で優勝経験もある、オカルトコレクターの田中俊行氏。今回は怪談「這うもの」を書き下ろします。ある怪談マニアが、数年前に一度だけ遭遇した“奇妙すぎる”体験。その衝撃の実話とは――。

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 私の知り合いにTさんという、生粋の怪談マニアがいる。関西在住のTさんは、心霊スポットや曰く付きの場所にたびたび出かけるほどの“怖い話好き”なのだが、実際に何かを見たり、不思議な現象に遭ったりしたことはなかった。しかし、数年前に一度だけ、奇妙な体験をしたのだという。

 きっかけは、関東の某県にある一軒家を訪ねたことだった。

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 その家は庭付きの、古い2階建てだった。所有していたのは、会社経営者のY社長。もともとは、社員研修時の寮として使用していたそうだ。

夜になると庭から“何か”が這い上がる

 しかしY社長によると、その家では夜になると気味の悪い現象が起きるのだという。なんでも、庭から「ズズズ、ズズズ」と何かが部屋に這い上がる音と気配がする。そして、“それ”は階段を「ズチャ、ズチャ」と粘っこい音を出しながら上がっていき、2階にたどり着くと忽然と気配が消える。と思うと、再度庭から部屋に這い上がり、同じようにして2階に上がっていく……。それを朝まで何度も繰り返すのだ。

 床を這っている感じや階段を上がる音などを考えると、“それ”は子犬ぐらいの大きさがあるのだという。

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 その家に宿泊する社員たちは、朝から厳しい研修を受け、夜にはその気色悪い現象に耐えなければならないのだから、たまったものではなかった。遂には研修中に音を上げる者も出てきてしまい、Y社長もその家を敬遠しはじめ、今では買い手を捜しているとのことだった。