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2020/05/23

genre : ライフ, 社会

「明日、その家に行ってもいいですか?」

 たまたま関東に出てきていたTさんは、ふらっと入った飲み屋でY社長と知り合った。そしてTさんが「私は怪談マニアなんですよ」と口にしたところ、「実は、こんな一軒家があって……」という話になったのだ。

 思わぬ話に興奮したTさんは、Y社長に「明日、その家に行ってもいいですか?」と持ちかけた。翌々日には関西に帰らなければならなかったが、翌日は特にやることもなく、どうしようかと思っていたところだったのだ。

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 Y社長は「あんなところ、行かない方が良いですよ」と返しつつも、しばらく足が遠のいていた家の様子が気になったのか、それともTさんの熱意に圧されたのか、渋々「わかりました」と了承してくれた。

 家まではY社長が案内してくれることになったが、「やっぱり私は近づきたくない」とのことで、中にはTさん1人で入る、という話で落ち着いた。

ある社員が夜中に目撃したもの

 そして翌朝、Tさんは一軒家に向かった。Y社長の車で向かう道中、Tさんは家の中を這いずり回るものは一体何だと思うか、尋ねてみた。するとY社長は「あそこは生首が出るんですよ……」と言った。

「社員の中に、確かめてやると言って夜中に階段前で待ち構えていた者がいましてね。そいつが見たんです。“それ”は動物ではなくて、髪を振り乱した人間の男の生首だったようです。社員は生首と目が合ったらしく、その瞬間に気を失ってしまいました」

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 Tさんはその日、一軒家で1泊することを決めていた。生首をこの目で確かめてやる――そんな風に意気込んで。そして一軒家に到着すると、Y社長は玄関前で「明日の朝、また迎えに来ます」と言い、すぐに帰っていった。

 Tさんは引き戸をガラガラと開けて、中に入った。やはり研修用の寮らしく、立派な玄関の壁には、社訓が書かれていた。しばらく人の出入りもなかったようで、蜘蛛の巣がちらほら見える。