北九州に住む書店員でありながら、膨大なホラー知識と実話怪談のアーカイブを持つかぁなっき氏。彼は“猟奇ユニットFEAR飯”の語り手担当として、2016年の夏からライブ配信サービスTwitCastingで、「禍話」という実話怪談チャンネルを続けてきた。
今回はその膨大なアーカイブのなかから、視聴者たちを恐怖に陥れた「集合体マンション」をお届けする。チラシ配りをしていた体験者が「もう二度と近づきたくない」と語った“とあるマンション”から始まる恐怖体験とは――。(全2回の1回目/#2へ続く)
(文=TND幽介〈A4studio〉)
あるマンションの集合ポストで覚えた違和感
この話はかぁなっき氏のSNSアカウントに、2018年頃にダイレクトメールで寄せられた体験談だそうだ。
メールの送り主は、当時、福岡県北九州市の大学生だったという男性のAさん。彼は学生生活のかたわら、広告チラシを郵便受けに入れる、ポスティングのアルバイトをしていたという。
そんな日々、Aさんは大学にほど近いとある集合住宅を訪れたことがあった。ポスティング作業において、一箇所で数十枚配ることができ、しかも集合ポストのおかげで移動の手間もかからない集合住宅はありがたい存在。Aさんは揚々とその寂れたマンションに入っていった。
しかし、その集合ポストで見たのは予期せぬものだった。
「絶対にチラシを入れないでください。困ります。」
そう書かれた張り紙。ただこの張り紙に違和感があったという。
たいてい、こうしたマンションの公共スペースに張り出されるものは、組合や自治体の名前などがあるが、その張り紙にはそうした表記が一切なかった。なおかつ印刷ではなく、異常にキレイなペン習字と思しき手書きだったのだ。
「……ま、いっか」
一瞬ためらったものの、配るチラシの内容が別段いかがわしいものでもないという謎の自負心もあり、Aさんはチラシを集合ポストに入れていった。だがその最中、また気になる点を見つけてしまったという。
全集合ポストに名札が入っていなかったのだ。部屋番号さえない。
「(やっぱやめときゃよかったかなぁ…)」
そうは感じつつもその日は一式配り終え、その場を後にしたのだそうだ。