マンションで男に話しかけられたKさんに迫り来る住民の気配
翌週、Aさんが大学のサークル室に入ると、何やらテーブルの周りに物々しい人だかりができていた。
「え、なに、なんかあったの……?」
上着を脱ぎながらAさんが人だかりに割って入ると、Kさんが椅子に座って、さめざめと絶望的な表情で泣いていたのだ。
「なあ、俺やばいかもしれない……」
Aさんの顔を見上げながら懇願するような声色で語りかけてくるKさん。その手には自宅のものと思しき郵便物が握られていた。
見るとKさんの名前のところだけが、黒マジックでキレイに塗りつぶされていた。
「何で俺だけ住所バレてるんだよ……もうやばいよ、これ……」
絶句する一同。
すると人だかりから少し離れたところにいて、事の顛末を聞いていたサークルの先輩のTさんが声をかけてきた。
「お前さぁ……一言でもさぁ……相談してくれりゃ良かったんだよ……Yからさ、お前らが偶然あそこ行ったって聞いていたから心配していたのに……なんで行ったんだよ、もぉ……」
T先輩は、Y先輩と同年代のサークルの先輩であり、このマンションの噂をいくつか聞いていた人物。彼は、一同から当日のことを詳しく聞くなかで、あのマンションについてのさらなる噂を聞かせてくれたそうだ。
通常では考えられないような“ケガ”を嬉々として負うように
そのマンションは、Y先輩が言っていたように、とある建設会社の社宅として利用されていたそうだ。
だが、ある夏の日に避暑地に行く計画を立てたことがあったという。その際に訪れたのが、もともと妙な宗教やセミナーが使っていた山奥の施設。彼らがいなくなった後に格安で貸し出されることになり、それを見つけた建設会社の一行が避暑地に選んでしまったのだという。
だが、その山奥の施設に行って以来、社宅に住む面々は次々と常軌を逸した行動をとるようになってしまったのだそうだ。
例えるなら“両手の指が、ある日を境に全部なくなっているのに、何事もないかのように笑っている”など、とにかく通常では考えられないような“ケガ”を負うようになった。そして、大ケガにもかかわらず、皆なぜか一様に嬉々としていたのだ……。