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冬でも読みたい「怖い話」

廃ビル屋上に半狂乱で飛び降りる女子高生が…父が見た“戦慄の一夜”

2020/12/26

 北九州に住む書店員でありながら、膨大なホラー知識と実話怪談のアーカイブを持つかぁなっき氏。彼は“猟奇ユニットFEAR飯”の語り手担当として、2016年の夏からライブ配信サービスTwitCastingで、「禍話」という実話怪談チャンネルを続けてきた。

 今回はその膨大なアーカイブのなかから、視聴者たちの間で大きな話題を呼んだ「模型上の死」をお届けする。廃ビルへの肝試しを企画した女子高生に降りかかった戦慄の実体験とは――。

(構成 TND幽介〈A4studio〉)

◆◆◆

 かぁなっき氏が当時高校生だった女性のSさんから聞いたのは、福岡県の福岡大学周辺の一等地にあるというヤバい廃ビルの話だ。

 そのビルは好立地にも関わらず、廃ビルとなって以降なぜかどんな店も寄り付かず、取り壊されることもないのだという。しかもその廃ビルには、人などいないのに「夜になると明かりがついてどんちゃん騒ぎが聞こえてくる」といった不可解な目撃談がたびたび語られ、そうした話を語った人は不可解な失踪を遂げている。さらに、近所の居酒屋などの間では、「ビルの上階の窓が開いていて“何者”かと目があったら事故に遭うのでビルの上階は見てはいけない」など、不気味な暗黙の了解が広まっているという……。とにかく、そんな噂が絶えない場所なのだそうだ。

©iStock.com

 だが、ときにこうした噂話は好奇心旺盛な若者の心を惹き付けるもの。当時女子高生のSさんとその友人たちも、学校の帰りに廃ビルの噂話で盛り上がり、熱気冷めやらぬまま「じゃあさ、行ってみない、その廃ビル?」と、思い出作りに肝試しを行う流れになったのだという。

廃ビルの肝試しだとは両親に伝えてなかったが……

「明日の夜さぁ、友達とちょっと遅くなるからご飯いらないわ」

 Sさんはリビングのそばにある洗面所から歯磨きを終えて戻ってくる流れで、さりげなく両親にそう伝えた。

 特段両親に告げずに行ったとしても怒られない気はしたのだが、廃ビルに忍び込もうという後ろめたさに対して、何らかの口実を両親に伝えておきたい、そんな女子高生らしいいじらしさの表れだった。

 だが、そんなSさんの機微など気づかぬかのように、両親の返答はそっけないものだったという。

「あっそー、了解」、母は食べ終わった食器を台所に運びながらそう淡々と返し、「デートコースは決まってんの?」と、テレビをつまみに晩酌を楽しんでいる父は、背中を向けて探ってきた。

「いや、友達とって言ったじゃん。ま、そういう感じだから」

 Sさんは自分の話より食器の片付けに意識が向いている母の様子や、何気なさを装った父の“イジり”に軽い苛立ちや気恥ずかしさを覚え、早々に自分の部屋に引き上げた。

 とにかく、これで気兼ねなく明日の肝試しが味わえる! Sさんはベッドに横になりながら、友人たちとのグループLINEを眺めて、明日の冒険に胸を躍らせ、眠りについた。