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上の階を覗いてみると……

 廃墟マニアの多くは、こうした研究設備を見ることに喜びを感じる。見た目がカッコよくて、写真も映えるからだ。探索を進め、上階へと向かう。これまで見ていた下階には実験室が並んでいたが、上階は事務室や物置になっていた。

 事務机が並び、棚には多くの書類が残されているが、これでは写真映えしない。この建物に来て、事務室をじっくり探索する廃墟マニアは少ないだろう。しかし、私は廃墟に来ると、どうしても書類が気になってしまう。時として、その建物の来歴が記された文章が残っていたりするからだ。

生物災害を起こしかねない場所に掲示されるバイオハザードマーク
カビが生えた恐ろしい警告文

 廃墟と化した建物を観察し、建物の構造や設備、そして書類などの残置物から当時の姿を想像する時間は、とても楽しいのだ。

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 管理者さんからは「物を持ち出したり壊したりしないこと」と言われている。そもそも、廃墟では自分が訪れたことの一切の痕跡を残さないのが、私のなかでのルールだ。それを守りながら、現場に残された書類を観察していく。

放置されていた“抗議文や告訴状”

 その部屋には経理に関する事務書類のほか、会社案内といった当時を知るための手がかりも残されていた。気になったのは、抗議や訴訟に関する書類だった。この会社の業務について、複数の研究者や専門家から「おかしいのではないか」との指摘を受けていたようで、その都度、相手方に抗議文を送ったり、訴訟を起こしたりしていたようだ。詳細は割愛するが、色々と揉め事の多い会社だという印象を受けた。

色々と揉め事の多い会社だったようだ
紙製の箱だけを狙ったようにカビが生えていた

 これまでの探索で、どのような業務を行っていた会社か、だいたい分かってきた。業務のなかで、鳥インフルエンザなどの高病原性ウイルスを扱い、動物実験も行っていたようだ。また、残置物の多さが、ある日突然閉業したことを物語っており、何らかの問題を抱えていたことを窺わせる。

 最後に残った部屋に入ると、ここにも少量ながら書類が残されていた。この部屋には土地の権利書など、会社にとって重要な書類が置かれていた。会社には重要でも、私のような探索者にとっては、それほど面白いものではない。少し拍子抜けしたが、ふと、ある議事録が目に留まった。