ヤバすぎる会話が記録された文字起こし
いや、正確には議事録とも呼べないような代物だった。どこかの飲み屋で話した内容をそのまま文字起こししただけで、50ページ以上はあるだろうか。出席者5名は、全員が動物薬品や養鶏の関係者だ。
「ビールだけじゃなくて、お酒もあるんですよ。」
「そんならビールで。」
「焼酎のお湯割り。」
「灰皿もらったら?」
そんなやり取りが2ページ目まで続いている。飲み会の会話を書いただけの文書。これは下らないが、面白い。アルコールが入ると、後半にはますます酷いことになるに違いないと期待し、読み進めていく。
しかし、3ページ目をめくったところで、話は突然とんでもない方向に向かい、私は一瞬で真顔になった。
「茨城のワクチンていうのは、打ったやつね。作ったんですか?」
「作ったんですよ。日本で。茨城で。」
「ウイルスはどこから持ってきたんですか?」
「香港。」
「それはもう隠して持ってきています」
どうやら、2005年に茨城県で発生した鳥インフルエンザについて話しているようだ。厚生労働省の発表では、原因として野鳥が運んだという説と、人為的に持ち込まれた説が有力視されていたが、いまだ解明されていない。一方、ワクチンとは、ウイルスを無毒化または弱毒化したものから製造されるので、そもそもウイルスがないと作ることができない――。そして発言者の一人は「ウイルスを香港から日本に持ち込んできた」と述べているのだ。
「それはもう隠して持ってきています。」
「あ、輸入手続きやってない。」
「やってない、ポケットに入れて持ってきてるだけやから。」
「それはできますわ。」
これは、とんでもない話になった。高病原性のウイルスを、一切の手続きを行わずに海外から日本に持ち込んだというのだ。しかし、これはあくまでも廃墟に落ちていた真偽不明な書き起こしに過ぎない。廃墟になった後に外部の人間がいたずらで持ち込んだ可能性ももちろんある。だが、その前提で読んでいても、とても興味深い。
この後は、県警が家宅捜索しても証拠が出なかった理由などを、皆であれこれ話している。雑談を挟みつつも、関係者の会話は弾み、生ワクチン(ウイルスそのものの毒性を弱くしたもののこと。これを打つことにより感染してしまうリスクがあるため、そもそも鳥インフルエンザに関して生ワクチンは日本で承認されていない)を打って感染した鶏を、大型焼却炉をいくつも用意して木だと偽って燃やしたとか、ゴルフ場に埋めたとか、とんでもなくヤバい会話が続く。