信教の自由を奪われ、親から特定の宗教への信仰を強要されて育った「宗教二世」の子どもたちは、どのような思いで日々を過ごしているのだろうか。ある教えが“絶対”であると信じ込んだ親との暮らしが困難に満ちていることは想像に難くない。

 ここではジャーナリストの米本和広氏の著書『カルトの子 心を盗まれた家族』(論創社)を引用。「エホバの証人」信者の両親のもとで育てられた元二世の苛烈な体験談を紹介する。(全2回の1回目/後編を読む)

※記事中に登場する人物の名前はすべて仮名です。

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小4で不登校、伝道のストレスから微熱、痙攣の症状が

 恵美は家にも居たくない、学校にも行きたくないと思った。

 小学校4年になって不登校になった。1日中鬱状態が続き、どうしようもない倦怠感に襲われた。ところが、母親はほとんど関心を示さない。

「学校を休んでいるのに、伝道に行こうって誘うんですよ。私の不登校になんか関心がなく、この世を救うことのみといった風でした」と恵美は寂しげに笑った。〈母には反抗しない。この鬱屈した気持ちは石に閉じ込めておく。大きくなったら絶対にエホバの証人をやめる!〉。そう思うことで、自分を慰めていたという。

 一方、母親の聡子はこんな思いを描いていた。

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「楽園がやってきたらお菓子を焼いたり自然の中で遊んだり、赤毛のアンのような世界を夢見ていました。トム・ソーヤーの物語のように家は大きな木の上につくろうと思っていた」

「その頃、カラスの増殖ぶりが話題になっていましたが、私たちはそれを終わりの日が近いことの徴しるしだと思い、終わりはもう近い、いよいよ楽園がやってくると話し合っていました。だって、聖書(黙示録19章21節)にある『(ハルマゲドンによって)滅ぼされた死体は肉食鳥が処理をする』という言葉を私たちは信じていましたから」

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 恵美は3カ月間学校を休んだあと再び登校するようになったが、今度はストレスが身体症状として現れるようになった。

 伝道訪問や集会に行く段になると、風邪のような症状が出た。腹が痛い、頭が痛い、立ちくらみがする、37度台の微熱が出る。それでも出かけなければならなかった。そうすると、今度は痙攣したように咳き込み、息が止まりそうになった。5分間だけ休ませてくれたが、発作が治まると、また次の家に向かって歩いた。しかし、10分から20分すると、また咳き込んだ。

 深刻なのは視力の低下であった。小学3年のときに1.5あった視力は小学4年になってから0.3と急激に低下し、小学六年になると0.08にまで下がった。