能とプロレス。この異質な芸能の混淆をテーマにしたドラマの着想を、宮藤さんはどこから得たのかな。
長瀬君とプロレスへの過剰なまでの愛がびっしり詰まったドラマを観ながら、珍しく真剣に考えた。
寿一(長瀬智也)の元妻ユカ(平岩紙)が、急に態度を硬化させ、息子の秀生(羽村仁成)が観山家に能の稽古に行くのも許さないと言いだす。ブリザード寿こと寿一のファンだったユカなのに。幸福な結婚生活と思っていた。しかし寿一が海外武者修行から帰国すると、ユカが離婚を切りだす。なぜ。困惑すると「寿一君、家で怖いねん。殺気を持ち込まんで」と別れる原因を一気にぶつける。
レスラーって、怖いよ。長州、藤波の大ブームの頃にプロレス記者が声を潜めて語った。「みんな普通じゃないの。マンションの隣に住んでいて安心できるのは、ジャンボ鶴田と藤波辰爾の二人だけだよ」「誰が一番強いか訊くと、前座レスラーまでが“真剣(マジ)”でやれば俺ですよって」
そんな剣呑なリングで試合した後に帰宅したら、殺気はギラギラ残ってる。「家は大阪城ホールと違うねん。2LDKのマンション」と元妻に脅えを語らせるクドカン氏は鋭い。
コロナ対策のマスクは、ドラマに影響したかな。能面。そして覆面レスラー。マスク三様。どれも、秘すれば花ってこと? 昔は覆面をとられ素顔を晒されたレスラーは、下着を剥がれたように顔を両手で覆ってリング外に逃げた。
街いく人たちのマスク姿には仮面の力はない。しかし、いまスーパー世阿弥マシンという仮りの姿でマットに復帰した寿一は、介護ヘルパーのさくら(戸田恵梨香)に、リング上から求愛の言葉を叫ぶ。何と大胆な仮面の告白だろう。
そして、さくらの愛を強く燃えあがらせた、寿一の山賊抱っこ。でかい戦利品のように肩に担がれ抱かれる快感が知りたい。
マリリン・モンローの『帰らざる河』に似たシーンがあった。ロッキー山脈を望む町々を流れる歌手が、酒場でセクシーな衣装で歌っている。そこに別れたロバート・ミッチャムが乗り込み、モンローを山賊抱っこする。抵抗してみせるモンローだが、外に出ると馬車にはミッチャムの息子もいて、メデタシ。
寿一とさくらだけではなく、息子の秀生と三人で馬車に乗り込む可能性もあるのかな。誰もが幸福そうで、逆にそこが怖い。何しろ寿一のキャパは大きい。どんな世界が、あの雄大な体に秘められているか、考えてもドキドキする。
長瀬君をずっと好きで良かった。これが最後とか深刻に考えないで。一度引退しても、大仁田厚のように何度もカムバックするのがプロレスだ。復活は大歓迎。また君の顔を見たい。
『俺の家の話』
TBS系 金 22:00~
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