事件内容のデータベース化、防犯ビデオの画像解析、GPSの活用……。今やなくてはならない科学捜査技術も、はじめから警察組織に存在していたわけではない。かつての“画像解析”は、防犯ビデオをブラウン管のモニターに再生し、必要な場面が映ると一時停止。その前にカメラを構えて画面を撮影するというアナログな作業を指していたのだ。

 そんな状況を変えたキーマンが、科学捜査官第一号となり、日本の科学捜査の基礎を築いた服藤恵三氏である。ここでは同氏の著書『警視庁科学捜査官 難事件に科学で挑んだ男の極秘ファイル』(文藝春秋)を引用。現代の警察捜査にもつながる環境を構築した際のエピソードを紹介する。(全2回の1回目/後編を読む)

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捜査現場に役立つ機材を

 この事件捜査と並行して、捜査支援の資機材開発にも取り掛かった。当時、刑事部長には、「カレー毒物混入事件」のときに和歌山県警本部長だった米田さんが警察庁会計課長を経て栄転していた。米田部長に、目指す組織作りと資機材の開発について説明すると、好きなように進めるようにと言われ、大変心強かった。

 亀有警察署刑事課で目の当たりにした現場のニーズから、必要な資機材をピックアップして考えた。そして具体化した一つ目のシステムが、「DB‐Map(Database - Map System)」だ。詳細な住宅地図、データベース、各種解析機能を搭載し、初動捜査から事件の分析を支援する機能を備えている。管内の防犯カメラの位置を示す地図さえなくて驚いたことが頭にあったから、必要と思われる機能を考え付くだけ搭載した。新たに発生した事件内容を、データベースとして追加で登録することも可能だ。

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 コピー機の前で縮尺に苦労していた若い刑事の姿を思い出し、画面上の範囲を指定すればワンクリックで拡大・縮小が可能で、即座に印刷できるようにした。貼り合わせて掲示するために、のりしろも付けた。

 解析機能は、パソコンを使い慣れた者にしかできなかった複雑な手順を初心者でも簡単にし、情報の共有も図れるようにした。さらに高度で専門的な解析が行なえる機能も追加した。DB‐Mapに搭載された地図情報・各種カテゴリーの基本情報と、分割印刷、経路や目標物検索などの初動捜査ツールを活用することで、捜査の迅速化が期待された。

 二つ目は、捜査支援用画像解析システム「DAIS(Digital Assisted Investigation System)」だ。

 亀有署の刑事たちは、押収してきた防犯ビデオをブラウン管のモニターに再生し、必要な場面が映ると一時停止して、その前にカメラを構えて画面を撮影していた。そのフィルムを暗室で紙焼きに引き延ばすから、画質は非常に粗い。「これが我々の画像解析ですよ」と真剣に言っていた。

 警視庁本部の鑑識課や科捜研に画像の検査や鑑定を依頼できるのに、100件のうち1件も持って行かないという。理由を訊くと、亀有から桜田門まで往復3時間もかかるのに加え、結果が出るまで時間がかかる。しかも、こちらから問い合わせるまで、本部は連絡をくれないという。