「これからは科学捜査の時代だ。宇宙からの科学捜査をやろう」
この2件で一気に、新たなシステムは捜査員たちの信頼を得た。この後、各本部からさまざまな解析依頼が舞い込むようになる。
平成8年に科学捜査官に転任した直後から、東海大学の情報技術センターへ画像解析を依頼することがよくあった。技術力が高く、科捜研などで鑑定不能の案件も持ち込んで、結果を出してもらっていた。東海大学は人工衛星データの受信施設である宇宙情報センターも所有していて、坂田俊文教授が両方の所長を兼任されていた。
「これからは科学捜査の時代だ。宇宙からの科学捜査をやろう」
と、坂田教授はいろいろなことを親しく教えてくれた。大学を退官された後もお付き合いは続いた。平成14年春にお目にかかったときは、宇宙開発事業団(現・宇宙航空研究開発機構=JAXA)の技術参与と、地球科学技術総合推進機構の理事長に就かれていた。
ご自身のこれまでの活動や研究から、米田刑事部長に参考になるプレゼンをしたいと言われ、1時間ほどの面会をセットした。その席で、坂田先生は突然、
「今度、内閣府からの委託で調査研究委員会を実施するので、ぜひとも服藤さんを委員にしたい。ご許可願いたい」
と申し出られた。何も聞いていなかった私は、面食らった。
米田刑事部長の了解が得られたので、宇宙開発事業団と東海大学が主催した「宇宙システムによる社会安全のための調査研究委員会」の委員として、平成17年まで活動した。坂田先生を委員長として、委員は各省庁・独立行政法人・民間研究所・大学教授や自衛隊OBなど、20名以上の錚々たるメンバーで構成されていた。日本が所有する宇宙インフラを、社会安全のためにどのように活用できるかがテーマだった。
坂田先生は、私を委員に選んだ理由をこう話してくれた。
「警察には、有事のときのホットラインが必要だ。でもたいてい、現場を知らない人が担当になってしまう。服藤さんは現場も科学もわかっている。だから声をかけたんだよ。有事のときは、衛星からの科学捜査を好きなようにやってもらうからね」
通信や放送への活用目的である「成層圏プラットフォーム」の一環で、飛行船を成層圏に6機打ち上げ、カメラを積んで気象や防災等のために日本列島を常時写す。たとえば山中から遺棄された死体が見つかったら、令状を請求して録画の中からその場所へ行った車を見つけ出し、帰り道をたどって犯人の家を割り出す。防犯カメラの映像やGPSを超えた宇宙からの科学捜査が、いずれ可能になるかもしれない。
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