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「俺が本部に戻ったら、署で自由に画像解析できる資機材を開発して配ってやるから、待ってろ」

 と、彼らに約束していたのだ。防犯ビデオ等の画像情報を迅速・的確に解析することは、特に初動捜査において欠かせない。簡便かつ短時間で処理できる高性能な画像解析システムを作り、各署に配布する必要があった。

 操作は簡単で、画面の指示に従って作業するだけでいい。回収した防犯カメラの映像を取り込むとデジタル化され、毎秒30枚の静止画がたくさん並んだ状態になる。手動でも自動でも動画を再生でき、その中の欲しいカットを指定してボタンを押すだけで切り取れる。ノイズを除去して鮮明化もできる。あとは印刷ボタンを押せば、すべて終了だ。

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 解析の結果を報告書にまとめる作業が煩雑だったが、これも画像を取り込みながら、気が付けば出来上がっているようにした。どの場面でどのような解析を行なったか自動的に記載されるので、内容に関する証人出廷が発生した場合にも対応できる。

 こうして、2つの資機材「DB‐Map」と「DAIS」が完成した。

捜査で得た情報・技術を組織で共有・蓄積するしくみを

 そして平成14年9月、「情報・技術・科学を用いた捜査支援について」と題する、捜査支援業務に関する分厚い意見書をまとめた。

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 殺人などの大きな事件が発生すると、所轄に本部の捜査一課から部隊が入って、特別捜査本部ができる。警察内部では、帳場と呼んでいる。その事件に科学的に捜査する項目があった場合、学術的な解析を行なったり、大学の研究者や医者などの専門家から話を聞くことになる。ところが、得られた情報や新たな技術はその帳場だけで保有され、事件が解決したら終わりだ。科学の分野に長けた人間が個人の財産として保持するだけで、組織として共有したり蓄積する仕組みがなかった。

 別の署で類似した事件が発生すれば、一から手探りか、経験のある捜査員に個人的に聞くしかない。そういう現実を誰もがわかっていた。しかし「現状はこうだ」と指摘するだけでは、文句を言うことと違わない。

 ではどうしたらいいのかを整理し、必要な資機材のプロトタイプを開発するために、業者と話し合いを進めた。さらに、警視庁の中にどういう業務や係が新たに必要になるか、何人の人員が必要かという部分まで、作り込んでまとめたのが、この報告書だ。構想から1年が経っていた。