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外交が苦手な菅首相

「外交および安全保障の分野についてはわが国を取り巻く環境がいっそう厳しくなる中、機能する日米同盟を基軸とした政策を展開してまいります。国益を守り抜く。そのために自由で開かれたインド太平洋を戦略的に推進するとともに、中国をはじめとする近隣国とその安定的な関係を構築いたします。

 戦後外交の総決算を目指し、特に拉致問題の解決に向けた取り組みに全力を傾けてまいります。弾道ミサイルなどの安全保障上の脅威、自然災害、海外に在住する日本国民へのテロの危険。これらのさまざまな緊急事態や危機に際し、迅速かつ的確に対処してまいります」

 菅首相が苦手とされる外交、安全保障政策については、「自由で開かれたインド太平洋」「戦後外交の総決算」「拉致問題の解決」などより色濃く安倍政権の政策を継承する色が出ている。発足した菅内閣においては、防衛大臣を安倍首相の実弟である岸信夫氏が務めており、このことからも当面は安倍前首相が閣外から影響を及ぼし続けると思われる。

菅政権 東大話法とやってる感政治』(星海社)

安倍政権が残した宿題は“環境対策”と“憲法改正”

「環境対策。脱炭素化社会の実現、エネルギーの安定供給にも取り組んでまいります。憲法改正は自民党立党以来の党是であります。私たち自民党はすでに4項目のたたき台を提示しております。引き続き憲法審査会において各党がそれぞれの考え方を示した上で、与野党の枠を越えて建設的な議論を行っていくべきだと考えます。しっかり挑戦していきたいと思います」

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 環境対策、憲法改正についてはさらりと触れるに留められた。その後の進展について若干補足すると、菅政権は予想以上に温室効果ガスの排出量削減に本格的に取り組む意向を示している。これはなぜなのかを考えると、おそらくは安倍政権を通じて先送りを続けてきた原子力政策、具体的には使用済み核燃料を再び原発の燃料として用いる「核燃料サイクル」や福島第一原発のタンクに莫大に溜められた「処理水の海洋放出」といった問題がこれ以上先送りできなくなったためと、書籍次章で後述する地元の事情が関係していると思われる。いずれにしろ他の分野も含め安倍政権がやらなかった、やりきれなかった宿題をこなしていくということであろう。憲法改正についても同様だ。憲法改正案を審議する憲法審査会は長らく一部野党の反発、サボタージュで事実上の休眠状態にあり一向に審議が進まなかった案件であり、安倍政権から託された宿題と言える。