「国民のため」になると確信できる管首相の無邪気さ
このように全般的に菅氏が総裁選で語った行政の重要課題に対するスピーチは、安倍政権の経済問題への姿勢の継承、やり残した課題の処理、霞ヶ関の統治、公明党へのメッセージという意味で各所への漏れのない配慮がみられる。インプットされた情報から実行すべき政策を選択する目、政策を実行する手腕、また政策を実行する仕組みを作る組織統治力、という意味では菅首相は一流である。
私にはこうした菅首相の「政治的立場」を意識して語る言葉がどこまでも乾いているように見えてしまうのだが、それでもやはり菅首相には菅首相の哲学がある。それが語られたのが最後の言葉である。
「目の前に続く道は決して平坦ではありません。しかし私が自民党の総裁になった暁には、行政の縦割りを打破し、既得権益を取り払い、あしき前例主義を廃し、規制改革を全力で進める、国民のために働く内閣をつくりたいと思います。皆さまのご理解とご協力を心からお願いを申し上げます」
このように菅氏は総裁選の最後の言葉をビジョンではなく「行政の縦割りを打破し、既得権益を取り払い、あしき前例主義を廃し、規制改革を全力で進める、国民のために働く内閣をつくりたいと思います」という政策実現の手法で締めた。いかにも実務家の菅首相らしい締め方ではあるが、良くも悪くもそれが「国民のため」になると確信できる無邪気さが菅首相にはある。それは菅首相自身が「叩き上げでここまで上り詰めた自分は、首相となった今でも未だ一国民としての感覚を失っていない」という自覚から来ているように思われる。より端的に言えば菅首相は自分にとっての当たり前が庶民にとっても当たり前と信じている。
新聞記者をエリート視しているのか
それがゆえに実のところ庶民からかけ離れたエリートの集まりであるマスコミの会見では新聞記者の質問を
「仮説には答えられない」
「(質問の意図に関わらず)いずれにしろ政府の立場は○○である」
「(疑惑の追及に対して)詳細は承知していない。すでに述べた通りである」
「セキュリティに関わるので答えられない」
と受け流し続ける。おそらく「君たちエリートには本当の庶民の目線はわからないのだよ」というように冷めた目で見ているのだろう。
【続きを読む】所信表明の締めはまるで“教科書丸写し” 政策を実現しているにもかかわらず菅内閣の支持率が伸び悩むワケ