庶民派、叩き上げのイメージで、就任当初は多くの国民から支持されていた菅義偉首相だが、いまやその支持率は見る影もない。果たして彼の何が日本国民を失望させているのだろうか。
ここでは、元経産省官僚で気鋭の論客として注目を集める宇佐美典也氏の著書『菅政権 東大話法とやってる感政治』(星海社)の一部を抜粋。これまでの発言をつぶさに検証し、菅政治の本質に迫る。(全2回の1回目/後編を読む)
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菅首相の政策方針 安倍政権からの「やってる感」の継承と国民目線
この原稿では、菅政権を評価する起点として、2020年の自民党総裁選で菅首相が、安倍政権から継承する政策や目下の最重要課題である新型コロナ対策についてどのように語ったか総合的に見ていきたい。
「私たちが8年前に政権を奪還して以来、安倍政権の中で一貫で取り組んできたのが経済の再生です。金融緩和、財政出動、成長戦略を柱とするアベノミクスは今後も継承し、さらなる改革を進めてまいります。政権発足前は1ドルが70円台、株価は8000円台、企業が経済活動を行うのが極めて厳しい状況でありました。現在はこの新型コロナウイルス感染症の中にあっても、マーケットは安定した動きを見せております。安倍政権発足以来、人口減少の中で就業者数は400万人以上増えました。そして下落し続けてきた地方の地価は27年ぶりに上昇に転じました。バブル崩壊後、最高の経済状態を実現したところで新型コロナウイルスが発生しました。まずはこの危機を乗り越えた上で、新型コロナウイルスによって明らかになったデジタル化やサプライチェーンなど新たな目標について集中的な改革、必要な投資を行い、再び力強く経済成長を実現したいと思っております」
まずは安倍政権の経済政策、いわゆるアベノミクスに関する成果を述べているが、このスピーチは「(改革を)やってる感政治」というものを数値的によく示している。安倍政権下において日本経済はそれほど成長したわけではない。具体的にGDP成長率を見てみると、
2013年:2.00%
2014年:0.38%
2015年:1.22%
2016年:0.52%
2017年:2.17%
2018年:0.28%
2019年:0.67%
という具合で顕著な成果が出たとは言いがたい。したがって、菅首相がアベノミクスの成果として語っているのは、株価、就業者数、地方の地価、など経済の副次的な指標で、これにより経済政策として成功している「感じ」を演出している。そして今後については何をするかを明示せずに「新型コロナウイルスによって明らかになったデジタル化やサプライチェーンなど新たな目標について集中的な改革、必要な投資を行い、再び力強く経済成長を実現したいと思っております」と漠然と改革志向をアピールし、過去に達成できなかった「力強い経済成長」を目指すことを述べている。これは「大きなビジョンなきタスクベースの改革」という安倍政権――特に後期――の経済政策の継承を明らかにしたものと言えよう。