処理水を海に放出することの是非
実はトリチウム水は国内外の原子力発電所でも発生しています。そこでトリチウムを除去できないまま、海岸沿いの原発では、どこも海に放出しているのです。日本の処理水の海洋放出に「懸念」を示している韓国の原発ですらトリチウムは海に流しています。他人のことは言えないでしょう、と言いたくなりますが。
そこで政府は、処理水を海水で薄めて太平洋に放出しようとしています。放射能の濃度をWHO(世界保健機関)が定める飲料水の基準を下回るレベルまで下げる方針です。
ただし、現在溜めている処理水には、トリチウム以外の放射性物質もまだ残っているのです。このためもう一度ALPSを通して濃度を下げる計画です。
トリチウム水は自然界でも生まれています。水蒸気にも雨水にも微量ですが、含まれているのです。このため水道を通って私たちの体の中にも少量ですが入ってきます。でも、すぐに体外に排出されるので健康には影響がないとされています。
だから問題はないと、理系の専門家は考えるのです。
懸念される風評被害
しかし、「安全」と「安心」は違いますね。福島の原発事故で破壊された原子炉によって汚染された水というイメージがあるため、拒否反応を示す人も多いのです。とりわけ心配しているのが福島の漁民です。これまで苦労して安全性をアピールしてきたのに、「福島の魚は処理水で汚染されているのではないか」という根拠のない風評被害を受けてしまう、というわけです。
福島県沖では、2020年2月に全部の種類の魚の出荷が認められるようになり、福島県漁連は2021年4月の操業再開に向けて検討を始めていたところです。いよいよというときに放水されては努力も水の泡というわけです。
それにしても、これだけ大量の処理水が溜まるのを政府は手をこまぬいてきました。アンダーコントロールではなかったのです。いよいよ待ったなし。コントロールしなければならないのです。