毎日汚染される約160トンもの水の行方
また、原子力発電所の地下には阿武隈山系からの豊富な地下水が流れていて、これが破壊された原子炉の下を通ることで汚染されてしまいます。ここは地下のあまり深くない場所に水を通しにくい岩があるため、地下水は浅い場所を通過。原子炉の下で汚染されてしまうのです。
これまでに地下水が原子炉の下に達する前に汲み上げたり、地中に壁を作って地下水の流れをせき止めたりしてきましたが、それでもなお1日約160トンもの水が流れ込んで汚染されています。
こうした汚染水はそのまま海に流すわけにはいかないので、いったん放射性物質を除去します。宇宙戦艦ヤマトがイスカンダルから「コスモクリーナー」を持ってきてくれればいいのですが、そうもいきません。ちょっと例が古いかな。
それはともかく、そこで「多核種除去設備(略称ALPS=アルプス)」を通して62種類もの放射性物質の濃度を下げています。要は活性炭などを使った特殊な吸着材のフィルターで放射性物質を漉(こ)しとっているのです。
ところが、これで全部が漉しとれるわけではありません。「トリチウム」だけは除去できないのです。
現在の技術では取り除くことが出来ない「トリチウム水」
トリチウムとは「三重水素」のことです。専門用語で言えば水素の「同位体」です。普通の水素の原子は陽子1個と電子1個でできていますが、三重水素の原子には陽子1個に中性子2個が加わっています。だから三重水素というのです。
一方、水の分子はH2Oですね。つまり水素原子2個と酸素原子1個が結びついてできています。このうちの水素原子1個が三重水素に置き換わったものが「トリチウム水」です。これは普通の水と性質がよく似ているので、現在の技術では取り除くことが困難です。
この困難さについて、専門家は「天然水と水道水が混ざったものから天然水だけを取り除くのができないのと同じ」と説明します。そう聞くと難しいと思いますね。でも厄介なことにトリチウム水は放射線を出すのです。ベータ線という弱い放射線で、紙一枚で遮断できます。大量に飲んだりでもしない限り人体への影響はないとされています。