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藤井聡太“棋聖”誕生の瞬間に立ち会い、「早く戦える場所に行かないと」

藤井聡太“棋聖”誕生の瞬間に立ち会い、「早く戦える場所に行かないと」

井田明宏新四段と高田明浩新四段をレポートする

2021/03/26
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「藤井先生が棋聖になられた将棋で記録を取った」

 新四段の共同インタビューが始まる。まずは井田新四段から。

「今朝の時点では自力ではなかったので、上がった実感はまだないのが正直なところです。11勝5敗で最終日を迎えたことは過去に3回(63、64、66回)ありましたが、いずれもいい結果にはつながりませんでした。三段リーグで結果が出なかった時期がつらく、今回は『2連勝していたら上がっていた』という状況は作りたくないと思っていました」

 昇段の要因については「これまでは負けを引きずることが多かったのですが、今回は落ち込まずに気持ちを切り替えてやっていけたのがあるかと。あと、記録係としてトップレベルの将棋を見ることは大きな糧になりました。藤井(聡太二冠)先生が棋聖になられた将棋で記録を取ったのが印象に残っています。早く戦える場所に行かないといけないと思いました」と語る。

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昨年7月に行われた棋聖戦五番勝負第4局で記録係を務めた井田新四段(写真左端) 写真提供:日本将棋連盟

 井田が将棋を覚えたきっかけは、新聞の将棋欄をみてということだった。棋士が将棋を覚えたきっかけとしてはやや珍しいものである。

「小学校1年生の時に、父に新聞の将棋欄を示して『これどういうルールなの』と聞いたのが最初です。当時は山口に住んでいて、同世代の子と遊ぶ場所もなく、ネットや将棋盤があれば遊べる将棋に惹かれたのだと思います」

「糸谷先生と公式戦で指したい」

 続いて高田新四段。

「首位で迎えた最終日だったこともあり、当然上がりたいとは思っていました。ですが1局目負けてしまって他力になり、最終戦は三田さんが負けたらという状況になって、三田さんは昔からお世話になってきた先輩だったこともあり、複雑な心境でした。奨励会を振り返ると、初段で1年止まった時は辞めようとも思いましたが、周りの方々に支えられたので感謝しています」

 目標の棋士については「幼いころから右玉をよく指しており、糸谷(哲郎八段)先生の力強い受けに憧れていたので、糸谷先生と公式戦で指したいです」と語る。

高田新四段の兄弟子・糸谷哲郎八段 写真提供:日本将棋連盟

 糸谷八段は、高田新四段と同じく森信雄七段の一門だ。弟弟子の言葉を受けて、

「高田新四段とは一門研などで指しておりまして、おそらくそこから来る高田新四段のリップサービスなのではないかと思います(笑)。将棋の傾向は、私と似ていて右玉などを得意とする力戦派居飛車党ですね。人柄は朴訥にして誠実で、思ったことを積極的に口に出すタイプかと思っています。岐阜在住なのですが棋士室によくきて記録や勉強をしており、非常にまじめです。時間の長い将棋はまだ不慣れかとも思いますが、活躍を心待ちにしています」

 と祝福した。