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「リムジンをどこに停めるか」が大問題

 道に迷わず、時間に遅れず、志村さんを収録現場やゴルフ場まで送る。この苦労とは別に、「リムジンをどこに停めるか」ということも僕には重要課題でした。

 前にも書いたとおり、僕が最初に運転したベンツリムジンは、車長がおよそ7メートルもありました。この車は志村さんの自宅近くにある平面駐車場に停めていたのですが、3台分のスペースを使っていました。中型車が3台停められるスペースに、ズドーンと大きくリムジンが停まっていたのです。

 当然のことながら、路上駐車をするときは大変です。交通の妨げにならない場所を探さなければいけないし、いつでも動かせるよう、車から離れることもできません。

 付き人になってまもない頃、六本木で待機していると、お巡りさんに声をかけられました。

「志村さん、今日も来ているんだね。何かあったらすぐ移動してね」

 そうなんです。夜の六本木界隈では、リムジンの持ち主が誰なのか、お巡りさんたちはみんな知っていたのです。

 その後、六本木で地下鉄・都営大江戸線の延伸工事が始まりました。この工事のため、六本木交差点から乃木坂方面には交通規制が入るようになり、夜になると一車線になりました。こうなると路上駐車はますます大変です。あれこれ苦労しながら停められる場所を探していたのですが、あるとき工事現場のガードマンさんに声をかけられました。

「これ、志村さんの車でしょ?」

「えっ、ご存じなんですか」

2014年の舞台「志村魂」の稽古を2人でする志村けんさん(左)と筆者(筆者提供)

大江戸線の工事現場が駐車場に

「うん、降りてくるところをよく見るからね。しかし、君も毎晩大変だねえ」

 そんな話をしながら、ふと閃きました。

「この車を工事現場の中に停めさせてもらえないだろうか」

 そう思ったのです。ダメ元でお願いしてみると、

「いいですよ。今の時期はトラックの出入りもそんなにないしね」

「ありがとうございます!」

 それからというもの、六本木で飲み待ちをするときは大江戸線の工事現場にリムジンを入れさせてもらいました。僕としては、もう本当に大助かりでした。

 そのことを志村さんに報告すると、「これでジュースでも差し入れしてあげて」と、お金を渡されました。工事現場のみなさんにはその後も何度か差し入れをしたと思います。

 今ではとても許されない話ですが、それから二十数年が過ぎた2020年、リムジンを停めてもいいと言ってくれたガードマンさんと、僕はまったく思いがけない形で「再会」するのですが、その話は第五章で書きたいと思います。