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西武・森友哉に“あの涙”の理由を聞いて、今季の復活を確信した

文春野球コラム ペナントレース2021

2021/03/30
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悔しさと、ありがとうと……

 月日は流れ、20年8月27日。西武は日本ハムを相手に1点を追う9回、1死満塁から山川穂高が左翼線を破り、逆転サヨナラ勝ちを飾った。わき上がるメットライフドームの観客席、もみくちゃになる西武の選手たちの中で、森だけが顔をくしゃくしゃにして泣いていたのだ。

 ベンチに座り込み、タオルで顔を覆ったあの日のことを、今春のキャンプ中に振り返ってもらった。

 チームは5連敗中だった。この日の先発マスクは新人の柘植世那がかぶった。森の出番は2点リードの7回からだった。

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「勝っている状態で自分がマスクをかぶるってなって。それに関しては正直うれしかった。信頼されてるんだなって思って」

 自らが捕手として1軍の試合に出始めたころのことを思い出したのだという。自分が先発で出場し、終盤は経験豊富な炭谷銀仁朗(現巨人)に託す。その先輩の姿を自らとダブらせるような感覚もあり、「信頼されている。うれしいな。結果を出さなあかんなって思った」。

 が、無情にも8回に失点し、逆転されてしまった。その後の9回に生まれた、山川の逆転サヨナラ打だった。

「逆転された後もチームは『まだいけるぞ』って雰囲気やったんですけど、自分ひとりだけが落ち込んでいる感じで。結果、サヨナラ勝ちで、(捕手として失点した)自分のミスも帳消しにしてくれたわけじゃないですか。だから、『悔しい』って思いと、『みんなありがとう』って感じでした」

屈辱が、過去最大級のエネルギーに

 18歳で流した涙と、25歳で流した涙。年齢を重ねても、そこには共通点がある。

「勝ちたい」という強い思いだ。金髪(現在は黒っぽい色に落ち着いていますが)に金色のネックレス。プロに入ってからは豪快でいかついイメージがある森だが、根底には丸刈り頭だった高校時代と同じ、勝利に対する純粋な思いがある。それがはっきりと表れた、昨年の涙だった。

 怒りと悔しさを力に変えた8年前と同様、プロ入り後最低の打率2割5分1厘で捕手としても壁にぶつかった昨年のままでは終われないというリベンジの心が、今季の森にはある。

 再び、あの夏を思い出す。

「打倒アメリカ」「世界一」を掲げた森の活躍はすさまじかった。

 慣れない木製バットでもバックスクリーン右まで本塁打をかっ飛ばし、7試合連続で打点を挙げた。捕手としても松井のスライダーをうまく操るリードを披露。もう一つのライバル韓国を10―0のコールドで下すなど、強い日本を作り上げた。

 代表を率いた西谷浩一監督(大阪桐蔭)も活躍ぶりを高く評価。「こんなリードも出来るようになったのかと思いましたよ。成長したなあ」と感心していた。

 跳ね返る力。西谷監督から試合中に怒鳴りつけられた直後の打席で本塁打を打つのが森という選手だ。

 ならば、野球を始めてから初めて「球場に行きたくない」とすら思った昨年の屈辱は、間違いなく森に過去最大級のエネルギーを与えているはずだ。

 西武優勝の鍵となる、森友哉の復活。私はこれを、確信している。

 と、ここまで書いたのが3月25日。すると、26日の開幕戦でオリックス・山本由伸のひざ元に食い込んでくるカットボールを本塁打に。28日は山岡泰輔の内角高めの直球を再び右翼席へ運んだ。

 特に山本から打った一発は辻発彦監督も「天才だね」と驚くバットコントロール。森の今季にかけるエネルギーの大きさは、やはり、桁違いだ。

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