今こそ高く立ちはだかる壁を越えていくチャンス
現在も決して悲観するような状態ではありません。藤本監督も「自分の形で打てているし、悪くない。(昇格も)近いんじゃないかな」と評価しています。だからこそ、良い状態を「持続」させなければなりません。「1軍のスタメンの状態次第ですぐ上がるかもしれない」と言われている今は、ある意味、2軍にいながらも“レギュラー組の1番手の控え”のような立場なのです。藤本監督は、上林選手がいつ昇格しても力を発揮できるようにと2軍での起用方法も気遣っていく考えを示しました。
上林選手も「時間の問題。やることは変わらないですから」と気を引き締めてアピールしながらその時を待ちます。
ただ、キャンプから右翼のスタメンを争ってきた栗原選手は、オープン戦の打率1割台と苦しみながらも、開幕3連戦で毎試合安打を放ち、本塁打も打ちました。開幕3連戦で安打が出なかった松田宣浩選手と中村晃選手も、4戦目で複数安打。川島慶三選手や長谷川勇也選手ら控え組も限られたチャンスでチームに貢献し、いつでもスタメンに代われるという信頼を得ています。チームとしてはこの上ないことですが、上林選手のことを思うと心苦しさも感じてしまいます。この調子だとなかなかチャンスは巡ってこないかもしれない……。
でも、まさにこの層の厚さ、壁の高さを超えたところにこそ、首脳陣が求める上林誠知という選手のいるべき世界が広がっているのかもしれません。今こそ、その高い壁に挑む舞台が整っているような気がします。
「今年は自分に優しくしなきゃいけない」
振り返れば、1軍デビューは2年目の2015年でした。15試合に出場し14安打をマーク。マリーンズ戦でイ・デウン投手から放った鮮烈な逆転満塁本塁打は多くのファンの心を鷲摑みにしました。ファームではウエスタンリーグ首位打者、最多盗塁など多くのタイトルを獲得するも、2016年は殻を破り切れず2軍暮らしが続きました。2017年は体重10キロ増でキャンプインすると、パワーアップした姿で連日のアピール。初の開幕スタメンを勝ち取りました。134試合に出場し、108安打13本塁打51打点12盗塁。シーズンを1軍で戦い抜きました。ただ、ポストシーズンは不振で悔しさを募らせ、涙したこともありました。2018年は143試合全試合に出場し、149安打22本塁打62打点13盗塁とキャリアハイの成績を収めました。侍ジャパンにも追加招集され、このままトップ選手への道を突き進むはずだと期待せずにはいられませんでした。
2019、2020年と影を潜めてしまった背景には、確かに死球によるケガの影響もありました。しかし、完璧主義者ゆえに自分で自分の首を絞めていました。ストイック過ぎる性格が前に進むことを阻んでいたのかもしれません。
「今年は自分に優しくしなきゃいけない」
自らに語り掛けるようにそう話した上林選手。一番のライバルはチームメイトではなく、自分の心の中にいたのかもしれません。
今こそ高く立ちはだかる壁を越えていくチャンス。この壁を越えたら、きっと球界を代表するスケールの大きい選手に……。期待が大きい分、困難も多いけど、上林選手ならやってくれると信じています。シーズンオフに「終わりよければすべてよし」と笑えるような1年になりますように。
◆ ◆ ◆
※「文春野球コラム ペナントレース2021」実施中。コラムがおもしろいと思ったらオリジナルサイト http://bunshun.jp/articles/44391 でHITボタンを押してください。
この記事を応援したい方は上のボールをクリック。詳細はこちらから。