今年の3月1日。スマートフォンで調べごとをしていると、画面上部にニュース速報がピコンと音を立てながら表示された。

≪巨人・田口麗斗とヤクルト・廣岡大志の交換トレードが成立≫

(えーー⁉ 廣岡と田口が⁉ 嘘やろ⁉)

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 スマートフォンが鳴る。阪神ファンの友人からだ。

「もう知ってる?」

「今見た。びっくりした。まさかすぎる」

「ほんままさかや。でも待って、これって岡本・廣岡の智辯学園コンビが復活するってことやん!」

「ほんまや!」

 今から7年前。2014年春のセンバツ大会に出場した智辯学園の試合を「おれは甲子園の外野席で見た!」と報告してきた友人は「あの春って3番・岡本、4番・廣岡じゃなかった?」と続けた。

「スタートはそうだった」

「学年は廣岡が1個下よな?」

「そうそう」

「いやー、智辯コンビが巨人で見られる日がくるとは思わんかったわ!」

 電話を切った後、しばらくなにも手につかなかった。私は記憶の目盛りを7年前の春に合わせ、しばし回想タイムに入っていた。

廣岡大志

「岡本より廣岡のほうが、絶対に負けん気が強い」

(これはいくらなんでもすごすぎる……)

 2014年2月、奈良県五條市に位置する智辯学園の練習グラウンドを取材で訪れた私は、当時高校2年生だった岡本和真のフリーバッティングにくぎ付けになってしまった。

 センターから右方向の打球が高い放物線を描きながら軽々とフェンスを越えていく。ドライブ回転のかかった当たりが左中間フェンスを越えた時は失禁しそうになった。金属バットを持たせてはいけない人だと思った。

(いったいなんなんですか、この打球は!)

 私は心の中で何度もそう絶叫した。

「逆方向へ飛ばすのとレフト方向にドライブしながら入れるやつは、みんなに驚かれます」

 打ち終わった岡本ははにかんだような笑顔でそう言った。

「智辯に入って、最初岡本さんのバッティング練習見た時、ほんまびっくりしました」

 そう話していたのが、当時1年生ながら名門のレギュラーの座をつかんでいた廣岡大志だった。

 その時点における岡本の高校通算本塁打は56本。うち48本が2年生になってから記録したものだった。まともに勝負を挑まれる機会はどんどん減り、四球で歩かされる打席が前年秋から激増していた。

「去年の4番・岡本は3番で起用しようと思ってます」

 智辯学園・小坂将商監督は新プランを立てていた。

「4番は成長著しい、スケール感のある新2年生の廣岡に任せる予定です。岡本が歩かされても廣岡がプレッシャーに負けない仕事ができれば得点力は上がる」

「廣岡くんはどんな性格の選手なんですか?」

「向こうっ気が強い選手ですね。負けん気が非常に強い」

「岡本くんよりも強い?」

「強いです。廣岡のほうが絶対に強い」

 勝負を避けられる状況は変わらないという前提の下、高校ラストイヤーに向け、岡本自身も必死に変わろうとしていた。

「今までは相手のボール攻めに対してイライラする気持ちもあったし、打ちたい気持ちが強すぎてボール球を追っかけてしまうことも多かった。でもイライラしたら相手の思うつぼだなと。今年はボール球をちゃんと見逃して、喜びながら一塁に向かおうと思ってます。そのほうがチームの雰囲気もよくなるだろうし、相手バッテリーも嫌なんじゃないかと思う。四球を選んで、笑いながら次のバッターに『よし! 次頼む!』と言って一塁に向かったほうが絶対にチームはよくなると思うんです」

 素晴らしい考え方ができる高校生スラッガーだなと思った。元巨人の4番打者・松井秀喜のようなバッターになる。そんな予感に襲われた。

 岡本が巨人のドラフト1位指名を受けたのはその年の秋のことだった。

岡本和真 ©文藝春秋